「文化祭…明後日だっけ?」
「うん。」
夜の光との電話。これが今の数少ない癒し。
入寮して会えなくなってからほぼ毎日のように電話をしている。LINEは毎日何往復もしている。
自分はこういうの、面倒だと思うタイプだったんだけど…光には連絡したくなる。連絡が来ると嬉しくなる。声が聞きたくなる。
「行きたかったな〜」
「うふふ、うん…」
「お化け屋敷やるんだって?」
「うん。司の案」
「あいつ怖いの無理なのに?」
「でも好きなんだよ。」
光の笑い声が電話越しに届く。心地よい、愛くるしい声。
「今日は親いるの?」
「ううん…二人とも明日帰ってくる」
毎日連絡をとっていて知ったことがある。光の親は本当にほとんど家にいない。基本的に帰宅は深夜だし、どちらかが、または両方が出張で光が一人で留守番していることもしばしば。
毎日の家事や食事は、日中家政婦が来てこなしてくれるらしいが…。
「そっか…戸締りちゃんとしろよ。」
「うん。」
こんなに可愛い子一人で家に置いとくなんて、心配じゃないんだろうか。いや、まあ心配に決まってるよな。あの親…特に父親、あきらかに光を溺愛してたしな…。
前に一度会った時に睨まれたことを思い出し、俺はこっそり苦笑した。
「でもね、明日帰ってきたらしばらく休暇で家にいるの。」
光が嬉しそうな声で言って、俺は心が穏やかになる。留守がちな親だけど、関係は良いようだった。
「そっか。よかったな」
「うん。」
***
シーズン中の今はとても忙しい。
あちこち遠征で飛び回るし、練習も毎日やる。
そんな選手たちの息抜きは…もっぱら試合後の夜の店。
「御幸ぃ、お前も行くか?」
今日も試合が終わったら夜の街に繰り出そうと盛り上がっていた先輩たちが、不意に俺を巻き込みにかかった。
「いや俺は…いいっす」
「なんだ〜!?彼女に遠慮してんのか!?」
「ぎゃはは!!純情だねぇ〜!!」
いや…そんなもん興味ないし…。
だって…この世に光より可愛い女っている?
「無理無理、あいつの彼女ガチ美人だから」
「いや俺も見たけどさあ〜、会えないんだから溜まるもんは溜まるだろぉ〜?」
「酒と女は男の嗜みだよなー!」
俺まだ19なんだけど。
だめだ、こんなふうになりたくない。プレーは尊敬してるけど…女にだらしないところは見習っちゃいけない。
俺はそっと部屋を出て、廊下の自販機に向かった。アイスコーヒーを買い、近くのソファに座ってスマホを取り出す。
光…明日が文化祭だから、今日も遅くまで準備してるだろうな。てことは、まだ学校か…。
あ〜…光に会いたい…。
シーズンが終わったら俺はしばらくオフで、実家にも帰れる。そしたら…光とどこか、旅行にでも行こうかな…?
旅行となれば一日中光と一緒。食事も、夜寝る時も…朝起きても、光がいる。
うわ〜…そんなの最高すぎる…。
誘ってみようかな…。
光の両親が許してくれれば…だけど。
あ…その前にちゃんと挨拶行っとくべきか?
俺も一応、もう高校生じゃなく、プロ野球選手…。ちょっとは信用度上がってるよな?
そんで、ちゃんと将来も考えてるって、ご両親に伝えて…。
……。
ドキドキしてきた。
試合が終わって寮に帰ったら…電話で伝えよう。
俺はロック画面の光の笑顔を見つめ、口元を緩めた。