「話し合ったんだが…高校在学中の生活は面倒を見る。その後のことは自分でなんとかしなさい。」
ゆっくりとテーブルに視線を落とす光。まるで希望を失ったように。
「…はい…ありがとうございます」
そう言う彼女の隣で、俺はテーブルを手で叩きつけた。
「なんだよそれ!光は大学に行くなって言うのかよ!?」
「光臣お前は黙っていなさい。」
「うちもねぇ、よその子の大学費用まで見る余裕はないのよ」
クソ親父は俺を見もせずに言う。その隣でクソババアが白々しい態度で被害者づらをする。
「光の親の遺産があるだろ!大学費用とその間の生活費くらい、余裕であるだろ!?」
「子供は黙っていなさい!遺産のことにお前が口を出す権利はない!なんて意地汚い息子だ、まったく!」
「はあ…!?」
「光臣…、」
いいから、と光が暗い瞳で俺を見た。
光の両親が死に、光はひとまず俺の家に住むことになったのだが。
俺のクソな両親が、まともに光の将来を案じるわけがなかった。どうせ狙いは光の親の遺産だ。
「…高校を卒業するまで…お世話になります。卒業したら…すぐに出ていきます」
光はそう言って、俺の両親に頭を下げた。
馬鹿げてる。なんでこんなことになってるんだ。
なんで…。
***
「…光!」
家を出たところで光を呼び止めた。振り向いた光は、まだ憔悴した顔だ。当たり前だが…。
「…荷物取りに行くんだろ?俺も行く。」
「…ありがとう」
疲れた顔で言って、光は歩き出す。
何も協力してくれない自分の親に嫌気がさす。荷物を運ぶのに車くらい出せよな…。
光と電車に乗り、光の実家へ向かった。道中はすごく静かで、周りがうるさく感じた。
途中、光の通う学校のそばを通りかかり、そのにぎやかさに、今日が文化祭だと思い出した。光は学校のほうを見向きもせず、とぼとぼ歩き続ける。
こんなの…間違ってる。
俺はこの世の理不尽さを呪いながら、光の後ろを歩いた。
光の実家につくと、光は鍵を開けて門を開いた。一緒に家の中へ入る。この家に入るのは久々だ。懐かしさを覚えつつ、もう誰も住まなくなるのだと思うと物悲しく思った。
…それにしても、物が少ない気がする。
もの悲しさを覚えたのはそのせいもあるかもしれない。
「…こんなに殺風景だったか?」
俺がつぶやくと、光は振り向かずに答えた。
「昨日…おじさんたちが来て、必要なものを持って行ったみたいだから…」
ぼんやりした声でつぶやくと、トン、トン、と階段を上っていく光。
俺は愕然とした。光の両親が亡くなった翌日に、俺の親はもうこの家に来て、おそらく金目の物を持って行ったんだと気づいたから。
どこまでも意地汚く、下劣…。そんな血を引いた自分の身を思うとぞっとするほどの憎悪を覚えた。
俺は光の後を追って階段を上がった。光は自分の部屋のドアを開けたところだった。
「…光…。…俺の親が…ごめん」
そう言うことしかできない自分が恥ずかしかった。悔しかった。
光は俺を振り向き、ほほ笑んだ。
「謝ることないよ。」
そして光は部屋に入っていき、荷造りを始めた。
着替えや学校の勉強道具をキャリーバッグに詰めていく。一度大学入試の参考書を手に取ったが、棚に戻した。
光は成績優秀で、大学も白栄を目指してると聞いていた。当然のように、大学でまた、同じ学校に通えると思っていた…。
光は一通りのものをキャリーバッグに詰めると、最後に机の引き出しの中から小さな小箱を取り出した。俺はその箱に見覚えがあった。光の恋人…御幸一也がクリスマス前に駅ビルのジュエリーショップで買っていた、あの指輪の箱だ。
光は小箱を大切そうにしまい、バッグを閉じた。
「…お待たせ。行こう」
光が言って、部屋の入口に来る。
「行こう」…。俺の家は、光にとって帰る場所ではない。
俺はキャリーバッグの持ち手を攫い、持ち上げて階段を下りた。
「…ありがとう」
光の声が背中から聞こえた。
俺は何もしてやれていないのに…。