「疲れたか?」
今日は移動日。遠征を終え、ホームへと戻る日。
バスの中でぼーっとしていた俺に、隣の席の先輩が声をかけてきた。
「あ…、いえ、大丈夫です。」
そうか、と気に留めた様子もなく先輩は言って、帽子のつばを深くかぶって目元を隠して腕組をし、寝る態勢に入った。
…昨日の夜、光が電話に出なかった。
そして今朝、光から届いたLINE。
『ごめん。しばらく連絡できない』
それきりどうしたのか尋ねても既読もつかず。
…何か胸騒ぎがした。
バスが高速道路を走る。
俺は焦る気持ちで、窓の外を眺め続けた。
***
夜になると、俺はすぐに寮を出て光の家に向かった。
だけど門が近づくにつれ、俺は異変に気が付いた。
電気がついていない…。
光の親が留守がちなのは知ってるけど…家は真っ暗で誰もいないように見える。
門に近づくと、さらに異変があった。
門には厳重に鎖がかけられ南京錠がされ、ポストは郵便物が刺さったままになっていた。
誰もいない…のか?
光はどこへ?
インターフォンを鳴らすが、応答はない。
俺はスマホを取り出し、LINEを開いた。
『大丈夫か?』
『何があった?』
電話も鳴らしてみるが、当然のように出ない。
なんで…?
どういうことだ…?
混乱したまま、仕方なくあきらめて俺は岐路についた。
明後日…少し時間があるから、今度は学校に行ってみよう…。
***
そして翌々日、俺は校門のそばに立っていた。
いつも光が帰るときに出て来る門だ。念のため、帽子を目深にかぶって、マスクもして。
…俺、ストーカーじゃないよな?
「あーっ!!御幸先輩!?」
ギクッ…。
「やっぱり!!なにしてんすかこんなとこで!?」
「沢村…。」
最悪なことに一番うるさいやつに見つかった。沢村が校門を出て駆け寄ってくると、あとから金丸と東条が追いかけてきた。
「御幸先輩!お疲れ様です!」
礼儀正しく挨拶をしてくれる金丸と東条。しかしその目は「一体なんでこんなところに?」と疑問を抱いているのがわかる。
「あー…お疲れ」
「練習見に来てくれたんスか!?」
「いや…悪いけど…」
俺は観念してマスクを外した。
「…光って今日はもう帰った?」
「え?」
確か東条と沢村は今年光と同じクラスだったはず。意を決して尋ねると、なぜか3人とも言葉を失ったように表情を固めて顔を見合わせた。
「…聞いてないんすか?」
そして金丸が遠慮がちに話し始めた。
「花城さん…、…先週両親が事故で…亡くなったんですよ」
その言葉が耳に届いても、俺はすぐに理解ができなかった。
「…え?…」
愕然とした俺を見て、3人はまた顔を見合わせ、事情を察したような顔になる。
「…それで花城は今週、学校休んでます。来週からは来るって聞いてますけど…」
東条が話の続きを引き継いで説明した。俺は静かに目線を外し、混乱する思考に集中して気を落ち着かせようと努力した。
光の両親が……死んだ?
なんで……こんな突然……。
じゃあ…光は……?
「…大丈夫ですか?」
東条に心配され、俺は我に返った。
「あ…あぁ。」
実は光と連絡が取れなくて…と言おうと思ったけど、やめた。
「…わかった。ありがとうな。じゃあ、俺もう行かないとだから」
「あ…お疲れ様です」
「ッス…」
まだ気が落ち着かないまま、俺は寮へと帰った。
今日も結局、光からの連絡はなく…。
来週もう一度時間を作ろうと決意した。