「あ…光!」

翌週の月曜日、花城が登校してくると、緊張が走った教室内で鷹野が一番に花城のもとへ駆け寄った。

「大丈夫…?」
「…うん。」
「こ…これ、休んでた間のプリントとか…。ノートとかも貸すから、言ってね。」
「ありがとう。」

花城はぎこちないほほえみを浮かべ、自分の席へ着くと、その表情を暗くした。それを見て、鷹野ですらも声をかけるのをためらって、ちらりと花城の隣の席の俺に視線をよこしてきた。

「花城…何かあったら、何でも言って。」

大丈夫?…と、聞く気には、やっぱりどうしてもなれなくて。
精一杯考えたありふれた言葉を絞り出した。

「うん…ありがとう。…あ、そうだ…」

花城は少し無理をしたような笑顔で言って、バッグから袋を取り出した。

「これ…タオル、ありがとう」
「え、あ…、わざわざ洗濯してくれたの?いいのに、ごめんな…」
「ううん。」

花城はそう言ってしばらく席に座っていたけど、周りの注目にいたたまれなくなったのか、静かに席を立って教室を出て行ってしまった。

「ねえ…大丈夫かな…。」

鷹野が俺のもとへやってきて心配そうに尋ねる。

「うん…」

俺はただ、共感することしかできずに、頷いた。


***


放課後、静かに帰宅しようとする花城に、鷹野が少し声をかけているのを見た。
心配そうな鷹野に微笑みを返して、花城は一人教室を出ていく。鷹野は今日は部活があるらしく、名残惜しそうにその背中を見送っていた。

「花城…どんな様子?」

鷹野に声をかけると、うーん、とうなり声が返ってきた。

「心配だよ…何もしてあげられないし…」
「そうだなー…」
「光ね、今、従弟の家に住まわせてもらってるんだって。」
「あ…そうなんだ。」

そっか…両親がいなくなったから…。
従弟って、あの、前に文化祭に来てた人かな…。

「それでね、その従弟の家が厳しくて、携帯も解約されちゃったらしいの!」
「え…!?」
「だから連絡取れなかったんだよ…、もう私心配で心配で…」

胸を痛めたように悲痛な顔をする鷹野を見て、先週御幸先輩が学校に来ていたことを思い出した。もしかしてあれは…花城と連絡が取れなかったからここまで来たのかな…。道理で、何か様子がおかしいと思った…。

「あ…やば!あたし部活いかなきゃ!じゃ、またね東条君!」
「う、うん、また明日」

あわただしく教室を出ていった鷹野を見送り、俺も鞄を持って教室を出た。そして途中で信二と合流し、一緒に寮へと向かった。
その道中で、俺は今日の花城に関する話を信二に話した。

「えー、携帯解約って…大丈夫なのか?それ…」
「だよな…」

従弟の両親がどんな人かはしらないが、はたから聞くと心配になる話だ。まして、両親を亡くしたばかりの姪なのに…。

「でさ…俺思ったんだけど…」
「え?」
「先週来てた御幸先輩…花城と連絡が取れなくて、心配で会いに来たのかなって…」
「…あ。」

信二は合点がいったように、確かに…、とつぶやく。

「どうすんだろ…」
「うーん…」

そんな話をしながら角を曲がったところで、目の前の校門に見慣れた人物の姿を見つけた。

「え…御幸先輩!?」

そこに立っていた御幸先輩は、俺を見つけると少し安堵したようにマスクをずらした。

「花城ですか?」

挨拶もせずに単刀直入に聞くと、御幸先輩は一瞬息をのんだ後、深刻な顔で言う。

「ああ…今日は学校来た?」
「はい。でもさっき帰って…」
「え?ここには来なかったけど」
「あ…そうだ花城、今、従弟の家にいるみたいで…電車通学なのかも…」
「え…」
「さっき帰ったばかりだから…今ならまだ追いつくかも…」

そう言い終わらないうちに、御幸先輩が駅のほうへ向かって駆け出した。
あの人が…彼女のためにあんなに必死になるなんて。走って追いかけていくなんて、まるでドラマみたいな…。
少し面食らった気持ちで、俺は信二と目を見合わせた。

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