「主力は今日の午後の練習は休みだ。各自しっかり体を休めてくれ。」

日曜の朝、監督が部員に向けて言った言葉で何人かの顔が浮かれた。


「よっしゃあ!祭りに行けるぜオメーらぁ!」
「男だけで行くのかぁ…」
「なんだよノリ悪ぃなあ!」

3年のレギュラー陣はさっそく遊びに行くつもりらしい。
祭り…か。花城達、行ってるんだよな…。

でも花城のあのやかましい友達も一緒だし、気にする必要もないだろう。

…いや、必要ってなんだよ、俺。


「御幸!お前も行く?」

亮さんたちの輪の中に、祭りに誘われたらしい倉持が加わり、俺を手招きしている。

「…うーん」
「行かねーなら別にいいわ」
「待って!行く!」

咄嗟に決めてしまった。いつも付き合いの悪い俺が乗ってきたから、倉持たちは少し意外そうに目を丸くしている。
…別に花城たちの様子が気になってるわけじゃない。


***


野郎どもばかりゾロゾロと駅前まで歩いていくと、ロータリー前の商店街が提灯や笹の葉や短冊で飾られ、七夕の音楽が流れていた。道には屋台が立ち並び、呼び込みや人々の声でにぎやかだ。

「結構本格的なんすね。」
「倉持、去年来なかったの?」
「え?はい」
「ああ、友達いないもんね」
「ちょ…亮さん!」

亮さんにからかわれる倉持を見て笑ったが、俺もこの祭りに来たのは今年が初めてだ。まあ、去年は普通に部活があったからなのだが。

「腹減ったな〜なんか食いてぇな」
「あ!益子さんもう屋台並んでる!いつの間に!」
「俺たこ焼き買ってくる〜」
「哲こっちだぞ!」

商店街に入るなり各々勝手に自由行動を始める部員共。だけど俺はそんなことはほっといて、道行く人々の姿の中にあの子の姿を探していた。

そんなに広い商店街じゃないし、一本道だから、もしいるならそのうち会うだろうけど…。もう帰ったかもしれないし、別の場所に移動したかもしれないし。

そんなことを考えながら、亮さんたちの後をなんとなくついて歩いていくと、ふと人ごみの雑踏の中に、ぱっと目を惹く顔を見つけた。

真っ白な陶器みたいな肌で、ぱっちりとしたとび色の瞳に、亜麻色のふわふわサラサラの長い髪。
人ごみの中にいてもこんなにも目立つ…花城。

しかもいつもの制服じゃない。水色の清楚なワンピースにサンダル、肩には小さなバッグを提げて、まるで花城の周りだけ涼しい風でも吹いているかのような爽やかさ。
私服、ああいう感じなんだ…。イメージぴったり。すごく似合っている…。

そんな彼女に嬉しそうに話しかける男の姿。速水だ。その姿を見て一瞬で現実に突き落とされる俺。
っていうか、花城の友達の姿が見えない。どこだ?なんで二人っきりなんだ?

「おい御幸!聞いてんのかよ」

突然倉持にどつかれて我に返った。

「あ?何?」
「だから!亮さん達が座れる場所探して来いって」

倉持に怒鳴られている最中も、花城と速水がこっちに向かって近づいてくる。どうしようか迷っているうちに、花城の目が俺を見つけて、留まった。

「?どした…」

俺の異変に気が付いた倉持が振り返るのと、速水もこちらに気づいたのはほとんど同時だった。

「…あれ、御幸も来てたんだ…」

速水の苦笑いはもう見慣れた。

「ああ…今日は午後オフになって、先輩たちと」
「そうなんだ。」
「……。」
「……。」

黙りこくる俺と速水、そして花城と倉持。

「…友達は?」

つい、とっさに、軽口のつもりで出た言葉は思わぬ本音だった。俺の顔は引きつっていたかもしれない。

「あー…なんか…」
「…急に来られなくなって」

顔を見合わせる速水と花城。あいつ…お調子者だとは思ってたが、やりやがったな。
速水と花城を二人っきりにしようとしたんだ。絶対そうだ。

「へ〜…」

平静を装って相槌を打った。だけど、倉持がもの言いたげに俺を見て口元を緩ませた。

「おい、倉持!」

と、そこへ戻ってきた亮さんが倉持を呼び、何かヒソヒソと話し始め、二人でニヤニヤしながらこっちを見る。絶対面白がってるだろ…。

「…じゃーな!」

俺は切り上げて、花城達から離れて倉持たちのほうへ戻った。

「あれ?いいの?」

ニヤニヤと面白がっているのを隠しもしない笑顔で聞いてくる亮さん。

「いや別に…。」

俺は無関心を決め込んで答え、二人が歩いて行ったほうを振り返るのも嫌だった。

017

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