「…倉持洋一!」

名前が呼ばれた瞬間、喜びと安堵が胸に広がった。
拍手に包まれ、俺は笑顔で頭を下げる。

育成選手として約1年、必死にやってきた。
かたや新人1年目から大活躍する御幸の噂を聞きながら、挫けそうにもなりながら…。
励ましになったのはいつも、花城さんのことを思い浮かべたからだった。
そして今日…俺は育成の卒業が認められ、正式な球団の選手として昇格した。

これで花城さんに…堂々と想いを伝えられる。

寮に帰ると早速沢村にLINEをした。
沢村とは卒業したあとも時々連絡を取り合っている。たしかあいつ、花城さんと同じクラスだとか言ってたはず。ったく、贅沢な奴だぜ…。同級生って羨ましい。

「電話」

短くLINEを送ると、割とすぐに沢村から電話がかかってきた。

「もしもし」
「なんすか藪から棒に!俺も忙しいんすよ!!」
「ヒャハハ。まあ聞けよ。俺育成卒業決まったぜ」
「え!!マジっすか!?おめでとうございやす!!」

気分が良くなり笑おうとすると、沢村はこう続けた。

「じゃあ俺と同期っすね!!」

そう…こいつは今年のドラフトで指名をもらい、別の球団にだが入団が決定している。

「アホか育成でも俺の方が先輩だっつの!!舐めた口聞いたらわかってんだろな」
「わ…わかってますよ!」
「ったく…」

それから一呼吸おいて、俺は本題を切り出した。

「…でさ。お前…さ。」
「なんすか?」
「は…花城さんって、同じクラスだろ」
「え?花城?…それが?」

沢村の訝しむ声。そりゃそうだ、俺が花城さんへ抱く気持ちは、多分御幸しか知らない。

「連絡先知ってる?」
「え?花城の?なぜ?」
「…いいから知ってるかどうか言えよ」
「知らないっす」
「…んだよ使えねーなぁ」
「はあ!?なんなんすか!?」
「じゃあ聞いてくんない?で俺に教えろ」
「なんで俺が!?」
「いいじゃん同じクラスだろ?ちょっと聞いてくれよ」
「ええぇ?いや…でもそれは…」

やけに歯切れの悪い沢村に焦れてくるとともに、少しの違和感を抱く。

「…何?ハッキリ言えよ」
「いやだって…流石の俺でも声かけづらいっすよ!」
「はあ?お前ケッコー仲よかっ…」
「花城、両親亡くなってからずっと落ち込んでるんすよ?」
「………え?」
「流石に声かけづらいっつーの!」

待て……。

…今何つった?

「おい今…、な、何つった…?」
「え?…知らなかったんすか?御幸先輩に聞いてないんすか?」
「ちょ…、詳しく…」
「俺も鷹野とか東条から聞いただけっすけど…両親が交通事故に遭ったって」
「…うそだろ…いつ?」
「えーと確か…文化祭の前日だったとかって…」

文化祭…?
もう…2ヶ月も前じゃねーか…

「…悪い、切るわ」
「え?は?ちょっ…」

俺は電話を切り、部屋を出た。そして一直線に、ある人物の部屋に向かった。

…御幸の部屋に。

ドアをノックすると、はい、と返事があり、少ししてドアが開いた。ドアを開けた御幸は、俺の顔を見て固まった。

「花城さんのこと…知ってたのか?」

俺は不躾にそう聞いた。何でそんなこと聞くのかとか、俺に関係ないとか、そんなことは構わないで、御幸は表情を暗くした。

「…ああ…」

何で言ってくれなかったんだと、言いかけてやめた。自分に何の関係もないことは、自分が一番よく知っている。

「…大丈夫なのか?今どうしてるんだよ?」
「さあ…親戚の家にいるって聞いたけど」
「さあって…どういうことだよ」
「…連絡も取れないし…俺もよく知らない」
「は…?」

だけど聞けば聞くほど、御幸が他人事みたいに話すから、俺はだんだんと怒りが湧いてきた。

「んだよそれ…それでも彼氏かよ!」
「別れたよ…もう」

そしてその言葉を聞いて、頭の中が一瞬真っ白になった。

「…は…?」
「…もう行ってくれる?俺明日試合なんだよね」
「待てよ!なんだよそれ…、別れたって何だよ!?」
「仕方ないだろ…光が別れようって…言ったんだから」
「お前な…!だからってこんな状況であっさり受け入れるか普通!?」
「お前に何がわかるんだよ。こっちはもう…話し合ったんだよ」
「話し合ったって何をだよ!?」
「…俺が全部面倒見るって!だから一緒にいようって言ったよ…!でもそんなのは嫌だって言われたんだよ!」

言葉を失った。
気づけば御幸は悲痛な顔になっていた。

「俺だって嫌だったよ…!でも…拒絶されたら何もできないだろ…。」

そう言って目元を赤くする御幸に、俺は何も言えなくなった。

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