美少女は初日から常連のおっさんたちに酷く気に入られ、親父もお袋もご満悦だった。

「いいね〜光ちゃん!おやっさん、こんな可愛い子どこで見つけてきたの〜!」
「ん〜?運命。」
「がっはっはっは!!」

酔っ払いの親父たちに囲まれて、ニコニコ微笑む天使…。ボロい飯屋の古い蛍光灯の中には似つかわしくない存在。
マジで何かの間違いだろ…。

「よかったな健〜!こんな可愛い子が来て!」
「は!?おれは別に…!」
「お嫁に来てくれたらもっと嬉しいんだけどねぇ」
「あ!?親父ふざけたこと言ってんじゃねえ!」

親父たちの揶揄に動揺してしまう自分を呪って、こっそりと彼女を見る。彼女は全く気にしていない様子で、相変わらずニコニコ笑っていて…。

まあそりゃそうだよな。
俺なんか眼中にないよな。

「光ちゃーん!注文お願い!」
「はい!今行きます」

花城さんは片付けの手を止め、客席に向かう。
正面からは直視できないくせに、俺は…
その横顔に、釘付けになっていた。



***



シャワーの音がする…。

普段なら気にもしないのに、今は気になって仕方がない。
だって…今風呂にいるのは、花城さんだから…!

あんな子がすぐそこの風呂で裸になってるとか…童貞には刺激が強すぎる。つーか今日から壁一枚向こうであの子が寝るんだよな…。
やべぇ俺、理性持つか…!?

「健〜!起きてる?」
「!!?」

突然お袋が部屋に入ってきて、俺は飛び起きた。

「ババア急に入ってくんじゃねえよ!」
「親に向かって何だいその口の聞き方は!!」
「何度も言ってんだろ勝手に開けるなって!!」
「相変わらずわがままな子だねえ!」
「俺もう23だぞ!?いい加減プライバシーを…」
「じゃあ一人暮らししたらどうだい!!」

ぐっ…。何も言い返せねえ…。

「それよりあんた明日暇だろ?ちょっと頼みがあるんだけど」
「はあ?暇じゃねえよ」
「光ちゃん、着替えもほとんど持ってなくてねえ。あたしの服を貸してもいいんだけど…それじゃ可哀想だと思ってねえ」
「……。」
「あんた光ちゃんの話になったら急におとなしくなったわね」

ぎくり。

「は!?別に普通に聞いてるだけだろ!」
「ふうん…まあいいけど。それでねぇ、お給料を前払いする形で先に少し渡したから、それで明日服とか下着とか買いに行かせてあげたいのよ」
「はあ…で?」
「この辺の土地勘がないらしいから、あんた商店街に案内してやって。」
「……わかったよ」
「あんたやっぱり光ちゃんのことになると素直…」
「うるせーなクソババア!!」


***


「あの…お休みの日にすみません。」

翌日、俺は店の営業前に花城さんと出かけた。
こんな可愛い子が俺の隣を歩いてる…。落ち着かない。

「いや、別に…」
「……。」

全然会話続かねえし…。
無言で歩き続けて、早10分。ようやく商店街の目的の店に着いた。

「…この店安いから。」
「あ…はい。」
「…俺はここにいるから、買い物してきなよ」
「はい。…行ってきます。」

花城さんは戸惑いつつも店の中に入って行った。…下着とかも買うのに着いて行ってもな…。

…花城さんて彼氏いるのかな。いやこんな状況だしいないか?でもあんなキレーな子、誰もほっとかないよな…。

「よー、健じゃん。」

不意に誰かが声をかけてきて、俺は振り返る。嫌な予感がしながら…そしてその予感は当たっていた。

「お前今何してんの?就活失敗したって聞いたけど」

そこにはスーツを着たかつての大学の同期たち。…と言っても仲良くはなく、気が合わなくて嫌いだった奴らだ。

「そのカッコじゃまだ働いてなさそうだなー」
「ぎゃはは、ひでえ〜」

そいつらは俺の格好…よれよれのTシャツにジャージのハーフパンツという姿を上から下まで見て笑い出した。図星だから何も言い返せない。

「俺らそこの証券会社に就職したのよ」
「…あー、聞いた」
「あ、そうだった?」

クソウゼエ…。コネ入社だったくせに。
大学での成績は俺の方が良かったし。

「え、マジで今何してんの?」
「…実家の店で働いてるけど」
「え!?あの今にも潰れそうなボロい飯屋!?」
「おい酷すぎだろw」

自分でも散々言ってるが、こいつらに実家を馬鹿にされると腹が立つ…。だけど揉めるのも面倒で、俺は黙り込んだ。

「ぶっちゃけ客来るの?あの店?」
「こないだ通ったけどバイト募集してるよな?俺応募しよっかなーw」
「ぎゃははは」
「あんな店で働くやついるかよw」

「…健さん?」

可愛らしい声が響いて、そいつらがぴたりと黙った。そして一斉に声の主に注目し、硬直した。
店から出てきた花城さんが、紙袋をさげて遠慮がちに俺に近寄ってきた。

「あ…私先に帰ったほうが…?」

俺の前にいるやつらを俺の知り合いだと思い、話し中だと思って遠慮したのだろう、花城さんは恐縮した様子で聞いてきた。
…男たちの視線を釘付けにしながら。

「あ、いや…帰りましょう」

俺が言うと、花城さんは「いいんですか?」と言うように目を瞬く。
その時、固まっていた男たちが我に帰った。

「……えっ、この子誰?」

さっきまでの調子は何処へやら、ぎこちなく俺に聞いてくるその態度に吹き出しそうになった。

「今うちで住み込みで働いてる子だけど?」
「…えっ」

また注目を浴び、遠慮がちに会釈をする花城さん。

「じゃ、仕事始まるから帰るわ」

俺はそう言い残して、花城さんを連れてその場を離れた。ひさしぶりにいい気分だ。

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