「ねえあの二人、高校での知り合いらしいわよぉ」

花城さんと倉持が階段を上がっていくと、お袋がまるで恋愛リアリティ番組を見ているときのようなテンションで言った。

「へぇー、光ちゃん青道だったのかぁ」

親父がのんきにつぶやく。そこじゃないだろう。

「え…、知り合いって何?同級生とか?」
「いや、倉持選手は去年卒業したから、1個上じゃないかぁ?」
「それって接点ある?」

何を抵抗しているのか自分でもわからないまま口をはさんでいると、お袋がニヤニヤして言った。

「恋人だったとか〜?」

そ…それは嫌だ!なんか…嫌だ。

「いい選手だしカッコいいもんな〜。光ちゃん見る目あるなぁ〜。」
「やっぱりうちのみたいなのは眼中にないんでしょうねぇ」
「おい!関係ねえだろ」


***


「こんちはー。」
「いらっしゃいませぇ〜!」

あれから倉持は頻繁にここへ通うようになった。どう考えても花城さん目当て…。でも気になるのは、花城さんは若干迷惑そうだということ。

「…いらっしゃいませ。」

いつもスマイルの花城さんが、倉持に対してだけは素っ気なく、目も見ずに水とおしぼりを運ぶ。

「あ、A定食大盛りで」
「…かしこまりました」

花城さんは倉持の注文に返事をして、厨房へ下がっていく。
倉持はそんな背中を目で追って…その目つきが意味ありげなことを、たぶん俺だけが気付いている。

「…ねぇ!倉持君って光ちゃんのこと好きなのかしらぁ。いつもああして見つめてないぃ〜?」

……お袋も気づいてた。

「どもー」

そのとき、ガラガラガラ、と勢いよく店のドアが開き、やかましい客がどかどかと入ってきた。

「おー健いるじゃん」
「元気か〜?」

ゲ…。あいつらだ。
こないだ商店街で会った、大学の同期。

「空いてるお席へどうぞ。」

花城さんは動じずいつも通りの接客をする。
だけど花城さんを見て、そいつらはニヤッと顔を見合わせた。
そして水とおしぼりを運んで花城さんが席に来ると、そいつらはさっそく絡み始めた。

「どうも〜。こないだ会ったよね?」
「え?」

期待に満ちた男たちの目。悪気なくきょとんと瞬く花城さんの目。
…噴き出しそうになった。

「覚えてねーのかよ!」
「ぎゃはは」
「悲しい〜!!俺ら忘れられてるぅ〜!」

勝手に盛り上がる男たちを、花城さんは一瞬困惑気味に微笑んでその場を流した。

「…ご注文決まりましたらお呼びください。」

そういって席を離れようとした花城さんの手を、男がつかんだ。

「あ〜待って待って。注文決まってる!」

花城さんは驚いて、掴まれた手を見た。

「君のこと注文するからぁ〜。ココ座って♡」
「や…、」

腕を引っ張られ、花城さんの顔が青ざめた。

「ちょっとお客さん!!何してるんですか」

親父が厨房から飛び出してきて男たちを怒鳴りつけた。
だけどそれよりも、同時に響いた何かを叩きつけるけたたましい音で、男たちは静まり返った。
店の隅の席にいた倉持が、人も殺しそうな形相で、男たちを睨んでいた。

「オイ…その手離せよ」

親父が怒鳴ってもへらへらしていた男も、ガタイのいい強面の男が相手となると大人しく従った。

「今すぐ帰れや。警察呼ぶぞ」

倉持の声には凄味があり、店内に緊張感が張り詰めた。男たちは顔を見合わせ、青ざめた顔で席を立つ。

「チッ、んだよ…」
「おいいいから行くぞ!早く…」

そして入ってきた時とは対照的に、そいつらはコソコソと店を出て行った。

「スイマセン、デカい音出して」

ぽかんとする親父に倉持が言って、親父は落ち着きを取り戻した。

「あ…あぁいや!助かりました!ありがとうございます」
「イエ…何もしてないっす」

倉持はそう言って静かに席に座る。その姿を見つめる花城さんは動揺を顔ににじませていて、迷うようにしばらく視線をさまよわせた後、倉持におずおずと近づいて行った。

「あの…ありがとうございました…」
「いや…別に…俺が気に食わなかっただけだから」

俺は何も…こいつよりも年上なのに、声を出すことすらできなかった。
なんか…悔しい…

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