「ねえ光、昨日どうだった〜?」
「……。」
朝学校につくと、鷹野が楽しそうに花城に絡んでいて、反対に花城は不満げにむくれた顔で鷹野を見つめていた。
「どうって別に…普通だよ」
「えー!何かなかったの!?」
「何もないよ。…急にああいうのやめてよね。」
「ああぁごめん光〜!!でも…でも〜!!」
「…どうしたの?」
俺は自分の席に行き、荷物を置きながら尋ねる。
「あっ東条君おはよ〜あのねえ昨日ねえ」
「……。」
楽しそうに話し出す鷹野をジトっとにらみ続ける花城。
「…で、急用あるから〜って言って、二人っきりにしちゃったのー!あはは!」
「ひどくない?」
ねぇ?と俺に同意を求める花城に、俺は苦笑いを返した。
花城が昨日、速水先輩と二人でデートをした、ってことが…俺には結構、いやかなりショックだった。
「ねえ〜どんな感じだったか教えてよ〜。あっ、告白された!?」
「そんなわけないじゃん…」
「えー!だって二人っきりだよ!?お祭りだよ!?」
「結構学校の人来てたし…御幸先輩たちもいたよ」
「えっ!?」
うんざりした感じで花城が言うと、鷹野は急に目を輝かせた。
「御幸先輩!?会ったの!?」
「え?うん…なんか部活の先輩?たちと来たって言ってた」
「え〜!御幸先輩見ちゃったのお!?ねね、どんな反応してた!?」
「…何?別に普通に挨拶しただけだよ」
話についていけない…けど、これは…。
鷹野は花城と速水先輩、そして御幸先輩の三角関係を楽しんでる…。
「あーん見たかったー!!」
「やめてよ。」
「ははは…」
***
「…でさ、鷹野は完全に楽しんでるよ」
「あいつなあ…」
夜の寮。信二と自販機のベンチで休憩がてら話をする。
「御幸先輩が花城さんを…ってマジなん?」
「いや…わからないけど」
「御幸、沢村が探してたぞ」
「知ってる」
すぐそばで聞こえた声に、俺も信二もぎくりとして口をつぐむ。するとすぐに曲がり角から、誰かから逃げるように御幸先輩が現れた。
「おっ、なんだお前ら風呂上りか?風邪ひくぞ」
「あ…ハイ!すぐ戻ります」
信二は急いで缶ジュースを飲み始めた。それを飲み終えてここのごみ箱に捨てたら部屋に戻る気だろう。
「あの…御幸先輩」
「ん?」
御幸先輩は自販機でスポーツドリンクを買う。
「七夕まつり、行ったんですね」
「あ?ああ、亮さんたちとな」
「ああ…。」
「なんで?」
「……花城が言ってたので」
ふっと御幸先輩が俺の顔を振り返った。苦笑いのような複雑な表情を浮かべている。
「…あ、そう」
「はい…」
「…お前らそんなことまで話すんだ?」
「いや、ていうか、聞いたのは鷹野ですけど」
「たかの?」
「花城の友達の、鷹野司です」
「ああ…」
思い出したのだろう、御幸先輩は納得したようにうなずいた。
「で、それが?」
「い、いえ、別に。」
「……。」
「……。」
沈黙が流れる俺たちを、信二が一番居心地悪そうに眺めている。
「…で?」
「え?」
「花城…祭りの時のことなんか…言ってた?」
そわそわ、こらえきれない様子で聞いてきた御幸先輩。
め、めちゃくちゃ花城のこと気にしてるじゃん、この人。
「いやー…特には…?」
「…なんか、速水と来てただろ?あ、知ってる?速水」
「あ、はい!速水先輩、よくうちのクラスに来るので」
「え?」
明らかに動揺した御幸先輩が、申し訳ないけれどすごく可笑しかった。だって、この人がこんなに取り乱すところなんて見たことがない。
「よく来る?」
「はい…3日に1回くらいは来ますよ」
「…何しに?」
「え、花城と話しに…」
「…へー」
…信二がにやけを抑えきれない顔でこっちを見る。必死にアイコンタクトを送ってくる。だけど御幸先輩の視線を受けながら反応することなんてできない。俺は必死に平静を装った。
御幸先輩は買ったスポーツドリンクの蓋を弄び、いつまでも開けて飲もうとはしなかった。クルッと開けたかと思うと、また反対側にギュッと回して閉じる。その繰り返し。見ていて面白いほど動揺している…。
「……。」
「……。」
「……。」
しばらく沈黙が流れた。俺は信二とこっそり目を合わせた。
そして御幸先輩は少し我に返ったのか、急にぽつりとつぶやいた。
「まあ…どーでもいいけど」
う…嘘だ!絶対嘘だ!!
この人がこんなわかりやすい嘘をつくなんて…!
「じゃ…」
「あ、お疲れ様です」
「ッス…」
そそくさと部屋のほうへ戻っていった御幸先輩が見えなくなると、俺と信二は堪えきれない顔を見合わせた。
「あの人…ガチじゃん」
「ね…」