「わあ〜!お久しぶりですー!!」
「お…お久しぶりです!」
「よぉ…相変わらず騒がしいな」
個室の飲食店で待ち合わせていた人物…鷹野と東条がやってきて、懐かしい再会を果たした。こいつらとは高校卒業してから連絡は取っていなかったが、ついこの間沢村を伝手に連絡先を教えてもらった。
「倉持先輩、活躍見てますよぉー!」
「ヒャハハ、そーかそーか」
「一応サインください!」
「一応ってなんだよ!」
「あはは…」
二人…というかほぼ鷹野の声だが、こいつらが入ってきたとたん個室は賑やかな空気があふれた。
これならきっと、喜んでくれる…。俺はこっそりとそう思いをはせる。
今回なんでこいつらを呼んだかというと、そう…
「…失礼します」
「あ…どーぞ!入って!」
ドアがノックされ、俺が返事を返すと、ドアはゆっくりと開く。えっ?と顔を固めた鷹野と東条が顔を見合わせて、開くドアに注目した。
ドアを開いて…花城さんはそこに立ち尽くした。
「えっ…?」
「…!!」
椅子を倒す勢いで鷹野が立ち上がった。東条は固まっている。花城さんも…鷹野と東条を見て、だんだんと目尻を赤くしていく。だけどそれよりも早く、鷹野がぼろぼろと涙を溢れさせて花城さんに駆け寄った。
鷹野が花城さんに抱き着き、嗚咽を上げて肩を震わせた。花城さんは呆然としつつも、ぽろっと涙を少しずつこぼし始め、鷹野の背中に手をまわした。
「光ぃ…っ…なんで何も言わずにっ…ううぅ」
「ごめん…」
「無事なの…?元気にしてた?大丈夫なの?」
「うん…」
「もう…!!ほんとに心配してたんだからね!!」
「ごめんね…」
鷹野にぎゅうぎゅう抱き着かれて、花城さんは涙を流しながらだんだんと笑顔になった。東条もやっと事態を飲み込んだ笑顔になって立ち上がり、二人の様子を見つめる。
その音で鷹野はやっと花城さんを解放し、東条を呼び寄せて一緒に抱きくるめた。
驚きつつ、遠慮がちに花城さんの背中に手を回す東条。花城さんは少し恥ずかしそうな笑顔で東条を見上げて…。
…チッ。ほんとは鷹野だけ呼ぼうと思ってたけど、花城さんのことを伏せて鷹野だけ呼び出すのってなんか、変に思われても嫌だったから仕方なくこいつもセットで呼んだけど、なんかモヤモヤする…!
「も〜びっくりした…倉持先輩先に言ってくださいよぉ!」
「それじゃ面白くねーじゃん。ヒャハハ」
「面白さとかいらないですってぇ!」
まったくも〜、と笑いながら涙を拭き、ようやく席に座る鷹野に続いて東条と花城さんも席に着いた。
「えっ、でもなんで倉持先輩が光と一緒にいるんですかぁ?」
「いや偶然…花城さんが働いてる店に行ってさ」
「え〜!どこですかぁ!?私も行きたい!!」
「中央駅の近くの定食屋…だけど、もうそこはこの間辞めたの…」
花城さんがそう打ち明けて、鷹野と東条は真剣な顔になって身を乗り出す。
「え?なんで?なんかあったの?」
「大丈夫…なのか?」
「あーそういうんじゃない、大丈夫大丈夫」
「なんで倉持先輩が物知り顔なんですか〜」
「花城さん、ゲーノー界のスカウト受けて。今もう、芸能人。」
「…えっ!!」
恥ずかしそうに俺をにらむ花城さんに、鷹野も東条も目を丸くして声を上げた。
「マジでぇ!?ついに!?いや〜私光はゼッタイ芸能界行くべきだと思ってたんだよねぇ!!だって死ぬほどスカウトされてたもんね!!やっと!?え、やっと!!?すご〜い!!サインちょうだい!!」
「おい…さっき俺には一応とか言ってたくせに」
「え〜いつから!?どこの事務所!?てか今どこに住んでんの!?」
「まだこの間…契約して事務所のマンションに引っ越したところで…」
「え〜すごいすごい!!!」
終始鷹野が大興奮で話が進み、3人は連絡先を交換して、これからはたくさん会おう、と約束をして、暗くなってきたころに解散した。
鷹野と東条が駅へ歩いていくのを見送って、俺は花城さんを連れて駐車場へ向かう。そこに止めていたバイクに近づいて、ヘルメットを一つとって渡すと、花城さんははにかんだ笑顔でそれを受け取った。
「送るよ、乗って」
「…はい。」
やべ、超いい感じじゃね?
バイクにまたがって、花城さんが俺の腰に手をまわしてくる。花みたいな甘い、いい香りがする。そして…背中に密着する柔らかい感触。
俺はバイクのエンジンをふかした。
そう遠くない花城さんのマンションまでバイクを走らせて、来客用の駐車場にバイクを停めた。
バイクから降りてヘルメットを外し、花城さんは俺を見つめる。
「今日…本当に、ありがとうございました。」
そう言った花城さんの目が、また少しうるんだように見えた。
「喜んでくれたなら…よかった」
「……。」
カッコつけてキザなことを言って、頭を掻く。
「……。」
「……。」
…帰りたくない。けど…付き合ってもないのに家に行きたがって引かれたら嫌だな…。
付き合ってほしいって…告白するタイミングはずっとうかがってるけど、花城さんの性格的に、ちゃんと仕事が軌道になって落ち着いてからじゃなきゃ断られそうだし…。
それに…御幸の問題もある…。
どんなに親しくなっても…俺は御幸の友達、って思われてる。俺と会うたびに、きっと花城さんの頭には御幸がチラついてる。少しでも未練があったら、きっと、俺とは…。
「…じゃ、帰るわ…」
「…あ…、」
下心を悟られぬうちにと切り上げようとすると、花城さんが息をのんで少し言葉に詰まり、じっと俺を見つめた。まるで引き留めるように…。
「…はい…。」
だけどうなずいて、花城さんはその目を伏せる。
…な…なに、その、意味ありげな態度…!!勘違いしちゃうっつーの…!!
「じゃ、き、気を付けて。」
「ふふ…もう家ですよ。倉持先輩のほうが…帰り気を付けてください」
「え、あ、そ…そーだな、でもほら、戸締りとか」
「…はい。」
小さく笑う花城さんに、まるで、弄ばれてる気分…。俺のほうが年上なのに…。
「じゃ…じゃあな。」
「はい。また…」
「ま、また。」
手を振ってくれる花城さんに小さく手を振り返して、俺はバイクにまたがって駐車場を出た。
あの…さっきの間…。もしかして、家に行く流れだった…!?
花城さんがもう、アイツと…そういうことを経験済みだってのは…なんとなく察してる。けど…
…俺たち一応、もう大人だしな…。大人の関係になっても…おかしくはない…のか?
あ〜もう、童貞だからわかんねぇ…!!
昔は御幸が間宮とそういう話をコソコソしてそうだったのを軽蔑してたけど…今になってやっと、相談したい気持ちがわかるなんて…。
さっきの花城さんの態度…もしかしてオッケーだったのか…!?
チクショー、なんか今更、後悔してきたああぁ…!!