「おい、花城さんがいるぜ」
授業中、前の席の奴らが噂しながら窓の外を見ている。
そこに見えるグラウンドでは1年女子が体育の授業の真っ最中で、走り高跳びをしているらしかった。
三々五々に立つ女子生徒たちの中で、ひときわ目立つ女の子。
白く輝くその姿は、まるで妖精が紛れ込んでいるような…。それほど目を惹く女の子。
花城。
「次、花城さんだ」
こそこそと盛り上がる男たちのささやき声を聞き流しながら、笛の音と同時に走り始める花城を目で追った。
高く飛び上がった彼女は、まるで羽でも生えているかのような軽やかさで、身を柔らかく翻し高跳びの棒を飛び越える。
細い体。控えめな、だけどしっかりとある胸の膨らみ。白い太もも。そしてマットに背中から落ち、起き上がって歩き出すその動作すらも、なにか心を惹きつける美しさがある姿。
「…き」
ここからでも見える、花城の笑顔。俺にはあんな風に、笑ってくれたことはないけど…
「…おい!御幸!」
「!!!はいっ!」
突然名前を呼ばれていることに気づき、俺は反射的に立ち上がった。
教室中の視線が降り注ぐ。倉持もニヤニヤしながら俺を見ている。やべえ、俺どれだけ放心してた?
「24ページの問2!」
「あ…はい、えーと」
どれだけ花城に見惚れてたんだ…俺。
***
「よ。」
「……。」
「ちょっと待てよー」
廊下でばったり会った花城に声をかけると、ちらりと睨まれて通り過ぎようとされたので、ふざけて呼び止めた。
「デートどうだった?」
にやにやと、からかっているフリで、花城の顔をうかがう。心臓の動揺が伝わってはいないかと内心はらはらしながら。
「デートじゃないです。」
「えーでも、二人っきりだったじゃん」
「だから司…友達が急に来られなくなって、仕方なく」
「速水は喜んでただろーなぁ。なんちゃって。はっはっは」
「……。」
花城は俺をにらんで口を尖らせた。だけど次の俺の言葉で、その目がぱっと見開いた。
「あの日、哲さんもきてたんだぜー」
「えっ」
長いまつげが縁取る、大きく見開かれた目の宝石のような虹彩に、俺の影がくっきりと映っている。
「会えなくて残念だったな〜。…でも逆にデート中に会わなくてよかったか?笑」
「……。」
そしてからかってやると、花城はすぐに我に返ってまた俺をにらんだ。
「だから…デートじゃないし、結城先輩もそういうのじゃないんだってば!」
「じゃ、なんなんだよ」
「御幸先輩に関係なくないですか?」
「だって気になるじゃん」
「ほっといてください。」
ほっとけるわけがない。最近の俺の頭の中は、ほとんどいつもずっと、花城のことが浮かんでいる。
「冷たいこと言うなよ〜」
「もーどっか行ってください鬱陶しい!」
花城が細い両腕で俺の体を押した。たいしたことない力で、だけど華奢な手のひらが精いっぱいに俺の胸を押した。
ぎゅうっと胸が苦しくなる。花城から伝わる感触が、心地良すぎて。
もっと触れたいと思ってしまうほど。
だけど花城の手はあっけなく離れ、そのままくるりと踵を返してしまう。
「…あ。」
と、すぐそこで、わなわなとふるえてこちらを凝視するやつと目が合った。
「み…御幸先輩…」
沢村が花城と俺を交互に見て、その顔に同情を浮かべ、俺のもとにやってきて、まるで慰めるように肩に手を置いた。
「元気出してくだせぇ…」
「その顔ウゼェからヤメロ。」
俺が花城に拒絶されているのを見て、好きな子に嫌われた哀れな男を慰めるような。
「花城!この男は性格は悪いかもしれねーが根は悪くない人なんだ…!」
「根も悪いよ。」
「なんも言い返せねぇ…!!」
「俺すげえひでー言われよう」