「なあ、今度の“僕花”のヒロイン役の子、めっちゃ可愛くね?」

先輩たちが盛り上がるのを聞きながら新聞を眺め、朝食をとる。隣に座った先輩に「ジジ臭いなお前」と笑われるが、気にしない。

「見た!デビューしたばっかの子だろ?18歳だっけ」
「めちゃくちゃ可愛いよな〜!久々にキタわ」
「オーディションの画像見たけどさ、スタイルもめっちゃ良いし!今までどこに埋もれてたんだって感じ」

男子寮がかわいい女の子の話で盛り上がるのは、高校でもここでも一緒か…。なんか懐かしい気持ちになる。

「色白で清楚!見ろよこの透明感」
「彼氏とかいんのかな〜!」
「会いてぇな〜始球式とかこねぇかな」
「誰かツテないか聞いてみろよ、合コンしたい合コン!」

…それにしてもやけに盛り上がってんな…。そんなに可愛い子なのか?
でもまあ…光より美人な子なんてそうそういないし。光を知っちゃってるから、もう女のハードル上がっちゃってるよな〜、俺…。

「マジ可愛いな〜、何て名前?」
「花城光ちゃん!」

……は?

「どうした?」

反射的に顔を上げた俺に、隣の先輩が不思議そうに眼を瞬く。

「いや…、なんでも…」
「大丈夫かぁ?」

…聞き間違いか?いや、でも…。
俺は震える手でスマホを取り出し、ネットを開いた。

…「花城光」。その名前を入力する指はひどく緊張した。そして…

…嘘だろ…。

オーディショングランプリ獲得、花城光さん。
実写版「僕の花束を君に捧げる」ヒロイン役抜擢、新星美人女優。
奇跡の美少女と話題・花城光、美的百花専属モデル契約を発表。

出てくる画像も全部、…全部…間違いない……光だ。

光……、芸能界に入ったのか…!?確かに、しょっちゅうスカウトされてたけど…。

「あ〜彼氏まだいませんように!!」
「いやいるだろ〜こんだけ可愛けりゃ」


***


「ういーす、どうしたんすか?」

スマホの向こうから聞こえる怠けた声。気の抜けた間抜けな声に、俺は緊張が少しそがれた。

「よぉ、元気?」
「はい、まあ…で、なんか用っすか?」

電話の向こうの相手…沢村が呆れた声で続ける。俺が用もなく連絡するとは思ってないんだろう。まあその通りなんだけど。

「あ〜、あのさ…ダメ元で聞くんだけど…」
「なんすか?」
「光…と連絡とれる?お前」
「は?」
「それか…誰か連絡取れそうな奴とか」

電話の向こうで沈黙が流れる。怪しんでる…こいつ超怪しんでる…。

「ハァ!?アンタ付き合ってただろ!?なんで俺に聞くんだよ」
「うるせえな諸事情あんだよ!連絡とれんのかとれねーのかどっち!」
「なんなんだよ倉持先輩と同じこと聞いてきやがって!知らねえって言ってんだろ!」
「…は!?倉持?」
「そーだよ確か…去年?倉持先輩も花城の連絡先教えろって連絡してきて…なんなんだアンタら一体!」

あいつ、そんなことしてたのか…。

「…まーそれはどうでもいいけど、じゃあ連絡取れそうなやつも誰も知らないってこと?」
「さあ〜…仲が良かったのは鷹野だけど…」
「あ、鷹野でいいやとりあえず。連絡先教えて」
「はあ?ったく…人を便利屋扱いしやがって!今から送るからちょっと待っとけ!」
「さんきゅー」

ぷつりと電話が切れ、ほどなくして鷹野のLINEIDが送られてくる。
鷹野に話は通しときましたんで!とのメッセージ付きで。意外と気が利くなあいつ。

元青道の御幸一也です。
光のことで聞きたいことがあるので連絡ください。

そう打ち込んで送信すると、ずっと見てたのかと思うくらいすぐに、鷹野から電話がかかってきた。

「…はい、鷹野?」
「えっ、御幸先輩!!?」
「おー、久しぶりだな…」

向こうからかけてきたくせに、鷹野は一通り驚いて騒いでからやっと少し落ち着いた。

「沢村君から連絡来てびっくりしました!!やば〜プロ野球選手の連絡先3つも貰っちゃった〜!」
「ああ、そう…、…え?3つ?」

沢村と、俺と…あと誰?

「はい!沢村君とー、御幸先輩とー、あとこの間、倉持先輩からも連絡が来て!」

な…なに?あいつに先を越されてるとは…。

「…そーなんだ」
「あれ?聞いてません?倉持先輩と同じチームじゃなかったでしたっけ?」
「いや…別に仲良くねーから」
「え〜!?うっそ〜!きゃはは」

うわー、なつかしい、この騒がしい感じ…。

「え…なんであいつから連絡来たの?」
「あっ、それはぁ〜…えーと…」

突然、それまではしゃいでいた鷹野が語気を弱めて言葉を濁し始め、直感で怪しさを感じた。

「な…なんでもないですぅ…」
「嘘つけ。なんだよそれ」
「いやちょっと久々に会わないかっていう!!東条君も一緒に!!」
「…変な組み合わせだな」
「え〜そうですかぁ!?」

怪しい…。なんかそれって…。
あの頃のメンバーから、俺と光だけを抜き取ったような…。

「…まあいいや。それでさ…聞きたいことがあって」
「あ、はい」
「…光の連絡先知らない?」
「あ〜…」

やっぱりそれですか、と言いたそうな反応。まあ、想像はつくよな…。

「しっ…てます、けどぉ…」
「え!マジで?」
「あ!でもでも!ほら、そう簡単に教えるわけにはいかないっていうかぁ…」
「なんでだよ」
「え〜だって…御幸先輩、光と別れてるんですよね?」
「……。」
「光の意思も聞かないと〜」

…案外しっかりしてんな、こいつ…。

「…じゃあ聞いてみてよ」
「わかりましたぁ」
「じゃ…ヨロシク」

祈る気持ちで電話を切った。光…どう思うんだろうか。
断られたら……想像しただけでショックすぎる。

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