「よ…よぉ。」
花城さんのマンションまで先輩の車で迎えに行くと、花城さんはびっくりした顔で俺と車を見た。
そんな花城さんは今日は上品な花柄のワンピース。可愛いぜ…。
「どうしたんですか?この車…」
「あ〜、出かけるつったら先輩が貸してくれてよ」
「え…、へぇ…」
借りもんだってのはダセェけど、事実だしな…。嘘はつきたくない。
「ほ…ほらほら、乗って!」
「…はい」
俺が助手席のドアを開けると花城さんは戸惑いながらもそこに乗り込んだ。慎重にドアを閉め、前から回り込み、俺は運転席に座る。
「なんか落ち着かないですけど」
「ヒャハハ…まあ楽しもうぜ」
「…どこに行くんですか?」
「あ、それももう決めてあるから」
フットブレーキを解除し、ギアを操作して車を発進させる。花城さんは静かに助手席に座っている。
「…仕事、どう?」
車内の沈黙がきつくて、俺はそう切り出す。
「…まだ何も、大したことはしてないですけど」
「だ、だよな。始めたばっかだもんな。ヒャハハ」
「あ、でも今日、宣材?写真、撮りました」
「お!へぇー、そーなんだ」
そっか…
花城さん、もうほんとに、芸能人なんだよな…。
「倉持先輩は?」
「へ?」
「お仕事。っていうのも変ですけど」
ふふ。と小さく笑う光に胸がキュンと鳴る。
「あ〜まぁ…楽しいぜ」
「ですよね。夢を叶えたんですもんね…本当にすごいです」
え…。花城さんにそんなこと、言われるなんて…。やばい、プロになって今一番嬉しい。
だって俺がプロを目指したのは…。
最後に、背中を押されたのは…。
「や…、まあまだ、完璧じゃないけどな…」
「え?」
「…花城さんと付き合えたら、完璧」
「…なんですかそれ」
にやける顔を抑えてそう言い切ると、花城さんは俺を見て顔を赤くし、唇を引き結んで俯いた。
やばい…可愛すぎる!!
胸がふわふわして、頭がくらくらして、花城さんがいる隣があったかく感じて…。
恋って素晴らしい。
幸せすぎる。
このまま…順調にいけたらいいな…。
***
「鷹野たちとは会ってんの?」
食後のハーブティーを飲む花城さんに尋ねると、花城さんはカップを上品にソーサーと重ねてテーブルに置き、微笑んだ。
「はい。この間また3人でご飯食べに行きました」
「へー、仲良いな」
「司がいつも誘ってくれるんですよ」
鷹野はわかるけど、東条…あいつ、なんてラッキーな野郎だ。そもそも高校の時からあいつは花城さんと同じクラスだったりしたし…
「…倉持先輩のおかげです」
不意に花城さんがそう言って、じっと俺を見つめ、微笑んだ。
な…
なんて破壊力の可愛さ…!!
「そ…そんな大したことはしてねーよ」
俺は照れ隠しにそう言って、顔の熱を冷ますためにアイスティーをゴクゴクと勢いよく飲んだ。
「あー…今日何時まで大丈夫?」
ドキドキしながら尋ねる。デートって、やばい。だって会話の一つ一つが駆け引きで…腹の底の探り合い。
花城さんが俺をどう思ってるか…もしこの後もまだ一緒にいられたら、もし…
…先輩に言われた通り、コンドーム持ってくるべきだったか…!?
いや…でも…付き合う前とか…万が一今日付き合うことになっても、今日の今日でヤろうとする男なんて幻滅されるよな…!?
うん…そうだ、俺は紳士的に振る舞うんだ。
「今日は…」
そんな俺の邪な気持ちに気づいていないような無垢な顔で、花城さんは少し考える。
「うーん…9時くらいには帰らないと」
「そ、そか、明日も仕事?」
「はい。」
「じゃあ遅くならないようにしねーとな…あ、ちゃんとそれまでには家に送るから、心配するなよ」
俺が言うと花城さんはカップに唇をつけてにこりとはにかんだ。あたたかいハーブティーのせいか少し頬の赤らんだ天使のような顔で…。
あ〜…!もう…可愛すぎていっそどうにかなってしまいたい!
惚けそうになる頭をなんとか動かし、今日もうあとひと押し、花城さんとの距離を縮めたいと考える。腕時計を見ると…現在時刻は夜の8時前。移動するなら今が最後だな…
「…デザートでも食いに行く?」
「え?」
「先輩にさ、ケーキのうまい店聞いたんだよ。なんか花城さんが好きそうなとこだったからさ…」
おしゃれなバル兼カフェという感じで、お酒も豊富だがスイーツに力を入れてる店。遠方からプロも訪れる名店だとか。昼はスイーツ目当ての客が行列を作っているが、夜は酒目当ての客が多く比較的空いてて穴場だとも聞いた。
「へぇ、行ってみたい」
花城さんがそう微笑んだ瞬間、俺の胸に喜びが込み上げる。あと少し花城さんと一緒にいられると思っただけで、俺は…。
「おう、じゃ、行くか。近くにあるからよ」
「うん。」