「先輩!」
駆け寄ってくるセーラー服姿の美しい少女。誰もが見惚れる美貌を振りまいて、彼女は花のように微笑む。
「私…ずっと待ってますね。この町で…。だから…。…必ず帰ってきてくださいね。」
言い終わらないうちに、彼女のつぶらな瞳が潤んで揺れる。そしてそれに見惚れた瞬間…宝石のような雫が一粒、また一粒と落ちて、彼女の頬を濡らした。
「…星河…」
俺が呟いて、彼女と見つめ合う。彼女の涙に心が揺さぶられて、目頭が熱くなり、もらい泣きしてしまいそうになる。
その時…
「…はい!カットー!」
監督の掛け声で、彼女…花城光ちゃんは瞳を潤ませたままパッと笑顔になった。
「良いね光ちゃん、完璧!」
「ありがとうございます。」
光ちゃんはスタッフに手渡されたハンカチでメイクに気をつけながら涙を拭く。芝居経験もない、ルックスだけでこの役に選ばれたかのように見えた彼女が、泣きの演技まで完璧にこなすとは…このドラマに携わる誰もが想像していなかったと思う。
一旦休憩!と監督が言ったので、俺は光ちゃんに近づいた。
「お疲れ。」
「お疲れ様です。」
天使のような笑顔。正直この配役が決まったとき、俺はまた顔だけの新人女優か…と思っていた。
だけど実際会った瞬間、その考えは覆された。光ちゃんは真面目で礼儀正しくて、そして…信じられないほど可愛い。子役時代からやってきて…この業界に長くいる俺から見ても、この子は、そこらの女優やモデルとはレベルが一桁も二桁も違う。美人すぎて会話の途中でも見惚れてしまう。単純に容姿だけじゃなく、その表情や動作全てが魅力に満ち溢れている。
とにかく、光ちゃんは、可愛すぎる。
「今日の差し入れ、招福堂のどら焼きだってよ」
「え!この間言ってたやつですか?」
「そう。めちゃくちゃ美味いって」
「嬉しいですね。」
「食べ行く?」
「ふふふ。はい、行きましょう。」
光ちゃんと連れ立って歩く優越感。実際演者の中では、俺は仲がいい方だと思う。
「いちごとクリームチーズ、どっちにする?」
「いちごで!」
「光ちゃんらしいな〜。はい。」
「そうですか?」
ちょっと恥ずかしそうに笑い、どら焼きを受け取る光ちゃん。俺はクリームチーズのどら焼きを取り、一口大にちぎった。
「味見する?」
「え…、ふふ、じゃあ…いただきます。」
光ちゃんに差し出すと、やっぱり嬉しそうに受け取ってくれた。それを口に放り込むと、とたんに幸せそうに綻ぶ光ちゃんの顔を見て、俺の胸は温かくなった。
「美味しい!」
「よかった」
「あ、こっちも味見しますか?」
光ちゃんが自分のどら焼きの包装を開けて、同じように一口大にちぎって差し出してくれた。
「うん。」
俺は頷いて、そのままかぶりついた。あっけに取られた光ちゃんの顔が視界に映る。
「うん、それも美味いね」
「あ…、そうですか…。」
ぎこちなくはにかんだ頬が赤い。意外…こんな美人なのに、案外耐性ないのかな。
「光ちゃんって彼氏いるの?」
「…え!?」
さりげなく聞いたつもりが、光ちゃんは顔を真っ赤にして動揺した。あ…これは、男の影を感じる。
「いや…、い、いないです」
だけど、これは…まだチャンスありか?
「へー、そんな可愛いのに。」
「もう…揶揄わないでください」
***
「本日のゲストは…なんと!高坂颯さんと、花城光さんでーす!」
拍手の中幕が上がり、スタジオに登場する俺と光ちゃん。今日は番宣のため一緒にバラエティに出演する。光ちゃんが登場した途端、可愛い〜!という黄色い歓声が上がった。
「いやほんまにえらい美人ですね〜!!」
「ありがとうございます。」
司会のベテラン芸人にそう振られ、はにかんで応える光ちゃん。
「18歳でしょ!?大人っぽいね〜!!」
「高坂君、ドラマで見つめ合ってドキドキしないの!?」
「いや、しますよ。」
ノリにノリで返すとスタジオにドッと笑いが起きた。
「いやするよなぁそりゃ〜!」
「します、します。ぜんっぜんします。」
光ちゃんが抗議がましく俺を睨んだ。それがまた観客席の人たちを可愛い〜!と沸かせた。
「光ちゃん、今年高校卒業したばかりでしょ?」
「はい。」
「彼氏とかいたの〜?」
ひな壇の芸人が揶揄うように言うと、光ちゃんはほんのり顔を赤らめて、愛おしそうな目で微笑んだ。それがもう…息をするのも忘れるほど、可愛くて。
「高校生のときは……付き合ってた人は、いました。」
ゆっくりと答えたその言葉は、本当に大切そうな…愛おしそうな物言いで。しばしスタジオがその雰囲気に呑まれ、静まり返った。
…きゃ〜!!と、我に返ったように上がる悲鳴。目を輝かせて光ちゃんに見惚れる芸人たち。そして…俺も。
「可愛すぎて皆見惚れちゃったよ!!」
「そいつ幸せな男だなオイ!!」