「ごめん…」
男がささやいて、花城さんの戸惑った表情が映る。そして男と花城さんが見つめ合い…
…濃厚なキスをした。
「うわ!やりやがったコイツ!!」
「ぜってぇ台本よりなげぇキスしてんだろ!!」
「あー!!俺の光ちゃんがぁー!!」
テレビに食いついていた先輩たちが一斉に悲鳴を上げる。
や…やられた。マジで見たくねぇ…!!でも気になる…!!
ただの演技…って花城さんは言ってたけど。俺は男だからわかる…。
この相手の高坂ってやつ、これガチのキスしてるだろ…!!
あ〜畜生、俺だって軽いキスしかしたことないのに…!!
そこまで考えて、俺は前のテーブルで飯を食っている御幸を思い出し、ちらりと様子をうかがった。
御幸は…頬杖をついてテレビを凝視している。
うわ、なんなのアイツ?よく見れるよな…
「そんで結局また光ちゃん置いてくのかよこいつは!」
「こんな奴やめとけ光ちゃん〜!」
「俺なら絶対置いていかねーこんな可愛い子!!」
先輩たち…ドラマにのめりこみすぎ…。
***
「こんばんは。」
「おう、お疲れ!」
花城さんと待ち合わせた、個室のダイニングレストラン。仕事終わりで少し遅れると連絡が来て30分くらいして、やっと現れた花城さんの笑顔を見て安堵する。
この様子だと、まだ御幸とヨリは戻してない…よな。つーか、それなら、断られるはずだし。
「すみません遅れちゃって…」
「いいって!仕事だろ?ほら、メニュー選びなよ」
料理を注文してひと段落つくと、俺は持ってきていた紙袋を取り出した。
「これ、一応、こないだの遠征のお土産…」
「えっ、お土産?」
いいんですか?と花城さんが受け取る。ちょっと気恥しい。
「わあ、おいしそう。どこ行ったんですか?」
「福岡…」
「へえー。…あれ、これは?」
花城さんが紙袋の中から手のひらサイズほどの紙袋に入れられたものを取り出す。
「あぁそれ、それも一応お土産っつーか…」
「開けてもいいですか?」
「どーぞ…」
なんか…今更恥ずかしくなってきた。
「わぁ、可愛い!」
花城さんの顔に花が咲いたみたいに笑顔が広がった。
「ほ、ほんと?よかった」
「なんですかこれ、ガーベラ?」
「あぁ、うん…たまたま見かけて…花城さんっぽいなーって」
「そうですか?」
「部屋…殺風景だったし。ヒャハハ…よかったら飾って」
「ありがとうございます。」
よかった…喜んでくれて。
それにしても…笑顔可愛すぎんだろ…!!
「どう、仕事は…慣れた?」
「はい。」
明るく微笑んでぶどうジュースを飲む花城さん。花城さんが飲むと高級ワインみたいに見える。
それにしても…あんなキスしても、花城さんはどうってことないのかな…。
「仲いい芸能人とか、いんの?」
「最近だと…雑誌の撮影で会った、古川茜ちゃんと気が合って。今度二人でご飯行きます」
「へえー!そりゃ…、」
美女コンビ…、と言いかけて、すんでのところで思いとどまる。
「…い、いいな」
「?はい」
古川茜…か。明るくてギャルっぽいイメージ。俺も知ってるほどの有名モデルで男人気も高い。そっか〜、そんなモデルとも仕事してんのか、花城さんは…。すげぇな…。もうすっかり芸能人だもんな…。
まあ俺は花城さんのほうがキレーだと思うけど…!
「失礼しまーす」
「あ、ありがとうございます」
店員が料理を運んできた。おいしそう、と笑顔を浮かべる花城さんにまたときめく。
御幸とも…こんなふうにデートしてんのかな…。
いま御幸とどーなってんの?
あいつのことどう思ってんの?
こないだ、やっぱり会ってたの?
花城さんは…誰が好きなの?
あ〜…聞きたい…けど聞けない…!!
「倉持先輩、どのくらい食べられますか?」
サラダを取り分けながら言う花城さんに、俺は意を決して切り出した。
「洋一…でいいよ」
意表を突かれたように俺を見上げる花城さんのきらきらした瞳。
「え…。」
そのぽかんとした表情に照れ笑いが混じって、俺は胸の奥がくすぐったくなった。
「それはちょっと…。」
「え、ダメ?」
「…恥ずかしいじゃないですか」
…恥ずかしい!!?
花城さんが俺の名前を呼ぶことに…照れてる…。
「いいじゃん、なんかいつまでも、先輩呼びってのも変だし」
「え〜…」
「俺も…光、って呼んでいい?」
花城さんの顔が、はにかんで緩んでいく…。
なんだその笑顔!可愛すぎるんだけど…!!
「…いいですけど…。」
…!!!!!
「ヒャハ…じゃ、じゃあホラ、俺のことも名前で!」
「……。」
恥ずかしそうにサラダをトングで取り皿に盛り付けながら、花城さん…、…光は呟いた。
「…洋一…くん?」
ヤバい…!!!
俺、今日、死ぬかも…!!!
「ヒャハハ…」
「何笑ってるんですか」
「いやだって…、ってちょっとストップ!サラダもういいって」
「いっぱい野菜食べてください。」