「ねえねえ!うちの野球部勝ち進んでるらしいじゃーん!」

7月も半ばに差し掛かったころ。
朝練を終えて教室に入ると、鷹野が嬉しそうに声をかけてきた。

「ああ、うん。俺は出てないけどなー、はは」
「これで優勝したら甲子園いけるんでしょ!?」
「そうだよ。」

俺と鷹野の会話をきょとんとした顔で見上げる花城。野球には詳しくないらしい。まあ、女子で詳しい人のほうが珍しいけど。

「光甲子園知らないのー?」
「甲子園は知ってるけど」
「今地方予選やってるんだよ!ね?東条君!」
「うん、今度決勝!」

先輩たちの功績だけど。俺も早く試合に出たい。

「えーすごーい!どことやるの?」
「稲実だよ。」
「あ!それってあれだよね、なんかすごい投手がいるんでしょ?2年生の」
「鷹野詳しいなー。成宮さんのことだね。」
「うちのお父さん、高校野球大好きなんだよねー」
「そうなのかぁ」

花城は静かに俺たちの話を聞いている。つい盛り上がってしまって申し訳なく思いながら、俺は花城に話を振った。

「成宮さんは御幸先輩の知り合いらしいよ。」
「ふーん…」

御幸先輩に関することならちょっとは興味があるかと思ったけど、予想以上に興味のなさそうな返事が返ってきた。

「えーじゃあ因縁対決!?決勝、いつ?私見に行こうかなあ」

鷹野のほうは興味津々にそう言った。

「ほんと?応援来てくれたら嬉しいよ!今度の土曜だよ。」
「えー!じゃあ行こうかなー!光、一緒に行こうよ!」
「うーん」

花城は気が乗らないのか曖昧な返事をした。来てくれなさそうだ、ちょっと残念…。まあ、俺もその日はただの応援係だけど。

「試合、だれが出るの?」

不意に花城が俺を見上げて尋ねてきた。

「ん?あ…花城が知ってるのは…1年は沢村と降谷…2年は御幸先輩と倉持先輩くらいかな…」
「えー!沢村君も出てるの!!?」
「あはは、すごいよな。」

横で聞いていた鷹野が驚いた隣で、花城は首をかしげる。

「倉持って?」
「ほら、御幸先輩とよく一緒にいる」
「ああ…」
「あとは…半分くらいは3年生だしなー」
「結城先輩は?」
「え?」

花城の口から意外な名前が出てきて、俺はつい目を瞬いた。

「結城って…結城哲也?」
「うん…知ってる?」
「知ってるも何も、主将だよ!もちろん試合にも出るよ。」
「そうなんだ…。」

ふうん…、とつぶやいた花城の頬は少し赤い。

「え…結城先輩のこと知ってるの?」
「まあ、ちょっと」
「えー!なにそれ私も知りたい!」
「家が近所なだけ。」

えー!とまた声を上げる鷹野。俺もさすがに驚いた。花城と結城主将がご近所さん…!?
しかもさっきの花城の表情。そして、普段あまり人に興味を示さない花城が、わざわざ聞いてくるなんて…。まさか。

「ねー光、試合見にいーこーうーよ〜!」
「うーん」
「はは…もしよかったら来てよ」


***


「最近速水先輩とどうなの?」

休み時間。渡り廊下で花城と話し込む。
花城は紅茶のペットボトルを弄びながら口をとがらせる。

「んー…メールしたり…」
「さっきの休み時間も来てたもんなあ」
「べつに、大したこと話してないけど」
「じゃ、矢野先輩は?」
「…遊びに誘われるけど…よく知らないし」
「そうかあ…」

ほかにも、ラブレターも相当貰ってるようだし…廊下を歩けば知らない同級生や先輩たちから声をかけられることもよくある。花城は本当に、ものすごくモテる。

「じゃあ…御幸先輩は?」
「は?」

花城の顔が楽しそうに笑った。

「なんで御幸先輩?」
「え…よく花城に絡んでるから」
「ふざけてるだけでしょ、あの人は」

み、御幸先輩…全然意識されてない…!

「いや、でも…あの人結構モテるんだよ」
「えー?」
「イケメンだし…うちの正捕手で、プロも注目してる選手で、よく雑誌とかにも載ってるし。練習見に来てる女子とかもいてさ。」
「ふーん…」
「でも、あんまり女子と絡んだりしないし…花城くらいだよ、ああやって絡みに来るの」
「…ふうん…。」

花城は窓の外に視線を向けて、口を尖らせたままうなずいた。

「まあ、どうでもいいけど…」

そうつぶやいた花城の言葉に、聞き覚えがあるなと思った。
それはすぐに思い出せた。御幸先輩も同じセリフを言ってたんだった。

「…あ、司だ。私戻るね」
「あ、うん!」

花城は鷹野の姿を見つけて教室のほうに戻っていった。
俺…なんだか、敵に塩を送っちゃったかなあ…。

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