「えーすごいイケメン〜!!」
「素敵〜!!」
現場に入るときゃあきゃあ盛り上がる声が聞こえて、俺はふと視線を巡らせた。
…なんか女の人が集まって盛り上がってる。
中心には光ちゃんがいて、彼女のスマホをメイクさんやADさんや衣装スタッフの若い女性が取り囲んでみんなでのぞき込んでいる。
「同い年なんですか〜!?」
「めちゃくちゃ美男子〜!」
「光ちゃんとお似合い〜!!」
え…なに?なんか嫌なワードが聞こえた。
「あっ!高坂さーん!高坂さんも来てくださいよ〜!」
と、スタッフの子に呼ばれたので、俺はいつもの営業スマイルを浮かべて光ちゃんたちに近づいた。
「何盛り上がってるの?」
「見てくださいよー!すっごいイケメンなんですよ!」
スタッフの子に促されるまま、光ちゃんのスマホを覗くと…
「うわ、なんかまた増えた…もう誰が誰かわからないんだけど」
鬱陶しそうに眉をしかめる、芸術品がそのまま動いてるかのような美男子がそこにいた。
「あはは。この人はね、高坂颯さん!知らない?」
「知らん」
「えー!有名なのに。光臣テレビ見なさすぎ!同世代で知らない人いないよー?」
光ちゃんが見たことないくらい、なんか、楽しそう…。
「あっ、じゃあもう撮影始まるから切るね!」
「はいはい」
「ばいばーい」
通話を切ると、一斉に感嘆のため息をつく女性陣。
「すごい美形の人ですねー!」
「いや〜目の保養になった〜」
「光さん、ありがとうございました〜」
そうしてそれぞれ持ち場に戻っていく。スタッフたちがはけてから、俺は光ちゃんに歩み寄った。
「今の…誰?」
まさか…彼氏?あんな美形の…!?まさかの強敵。ルックスには自信あったのに…。でもそれなら、キスしたときに全く動じてなかったのも納得っていうか…。え〜嘘だろ…あんな美形と付き合ってんのかよ…!?
「従弟です。」
「え?」
……従弟?
「今アメリカに留学中で。」
「へえー…」
な…なんだ、従弟か…。
…ってそれでも、光ちゃんのルックスのハードルが高いことに変わりはない。
くっそ〜、身内にあんなのがいるのかよ…!?そりゃ俺にもなかなか落とせないわけだわ…。
***
「よお、おつかれ〜」
「お疲れ〜」
芸能人仲間との飲み会。今日のメンバーは昔共演して仲良くなった若手俳優たち。いつもよく集まるメンバーで、気兼ねのない仲間だ。だけど今日は、それだけじゃなく…。
「こいつ、言ってた奴。いい曲書くんだぜぇ」
「へー。どうも、高坂です」
俳優業に加えて最近曲作りも始めた仲間がそう言って紹介してきたのは、俺より少し若い不愛想な男。だが、まあ顔は整っている。ワイルド系だ。
「ども…間宮傑です。」
ぺこ、と乱雑なお辞儀とともに、差し出した俺の手を握る間宮。粗野な印象はあるが、容姿と相まって悪い印象はない。芸能界向いてるな、こいつ。
「間宮はいつから曲書いてんの?」
「子供のころから…本格的には高校の時ッス」
「へー、すごいね」
みんな席に着き、それぞれ食べ物をつまみながら歓談を始めた。
「もう間もなくメジャーデビューだからこいつ。なっ!」
そういって肩を抱かれた間宮は照れ臭そうに笑った。
「あ、それでさ、こいつお前に会いたがってたんだよ」
「え、俺に?」
仲間にそう言われ、俺は驚いた。間宮みたいな男くさいタイプの奴に、あまり気に入られるような覚えはない。態度からしても別にファンとかじゃなさそうだし…。
「へー、なんで?」
ハイボールを飲みながら軽い気持ちで尋ねると、間宮は鋭い眼光で物おじせず俺を見つめてきた。まるで品定めるように…。
「今、花城光と共演してるじゃないっすか」
「え…、ああ、うん」
「だからです」
「あ〜、光ちゃんのファンなんだ」
なーんだ、そういうことか。まあ、お前はまだまだ会える相手じゃないけどな。
「いえ。高校の時の後輩で…ずっと好きだったんです」
「え…」
部屋の中が静まり返った。別の話で盛り上がっていたほかの俳優仲間たちも、え?と面白いものを見つけたようにこっちに注目した。
「え〜、マジで?そーなんだ。じゃ面識あるの?」
「はい。何度も告ったんで」
「え!すげー度胸!そんでどーだったの?」
「まあフラれてましたね。あっちには彼氏いたし」
「え…」
――高校の時は…付き合ってた人は、いました。
不意に光ちゃんのあの愛おしそうな顔が脳裏に蘇った。そうだった。そうだよな。てことは、こいつは…光ちゃんの元カレを知ってる。
「あ〜…そういやそんなこと言ってたね…」
「……。」
「……え、それってどんなヤツなの?」
俺は動揺を悟られぬように笑顔を張り付けて尋ねた。間宮は一切表情を変えず、俺の顔を凝視し続けている。
「どんなヤツっていうか……あー……」
そしてちょっと視線を天に向け、考えるように沈黙し、小声で「まぁいいか」とつぶやいた。
「ダイエーの御幸一也っすよ。」
「…えっ?」
再びの静寂が部屋を包んだ。皆呆気にとられて言葉を失った。
「…え!!そーなの!?」
「御幸一也と花城光って付き合ってたの!?」
「すげー大ニュースじゃん!」
「やばいやばい、週刊誌ネタ!!」
御幸一也って…。
野球に疎い俺でも知ってる、大人気の若手プロ野球選手…。その甘いマスクでテレビでも話題になってた…。
じゃあ、あいつが、光ちゃんのファーストキスの相手…。
「そんで高坂さんに頼みがあるんですけど」
周りの大騒ぎなんて意にも介さずに、間宮は言葉をつづけた。
「花城さんと会いたいんで、今度何人かで食事とかでいいんで…花城さん誘ってくれませんか」
「え?」
「お願いします。」
間宮は深々と頭を下げた。きれいに黒々としたつやのある黒髪の真ん中に、旋毛が見えるほどに。
まあ…俺も光ちゃんとチャンスがあればプライベートで誘いたかったし、でも1対1じゃ光ちゃん、絶対来てくれなさそうだし…。高校の時の知り合いってのは、使えるかも。
「あー、じゃあ…聞いてみるわ」
「ありがとうございます!」