「今日空いてる?」

送信前の文章を見つめる。あれからまだ光と会ってない…。
あの雰囲気だったんだし…きっとうまくいく。次に会った時には、またもと通り…恋人同士に戻れる…はず。
そう思うけど…。

…あれから、光から何も連絡来てないんだよな…。

最後のLINEは…「今日はありがとう」ってあの日の夜に光からLINEが来て、俺が「こっちこそありがとう」「また会おう」って送って…、で、その返事がない。まあ光のメールって、高校の時からこんな感じだけど…。
…でもあの感じで別れたら、会う気があるなら、これは最低限返事しないか…!?
俺が帰って…冷静になって、やっぱいいや、ってなったんじゃないだろうな…。

「御幸さん、お願いしまーす」
「あ、はい!」

俺は結局何も送信せずにスマホを閉じて置き、控え室を出た。
今日は女性向けファッション誌の撮影現場に来ている。スポーツ選手なのになぜそんな場所に来ているのかと言うと…

「次世代を担う天才イケメンアスリート特集!俺にピッタリのテーマだよね〜!」
「…鳴。」

スタジオに入るとスタッフ用の椅子を玉座のように使いくつろいでいる鳴が目に入った。

「えっ、一也じゃん!なんだお前も呼ばれてたの!?」
「やかましいな〜相変わらず…」
「なんだよ言えよ〜!今日昼飯どっかで食わない?」
「断る」
「なんでだよ!」

「…御幸、久しぶり!」

そこへ俺に声をかけてくる人物がもう一人いた。振り向くと、懐かしい面影のある爽やかな好青年…

「…速水!?」
「ははは。」

白い歯を見せて爽やかに笑う少年のような笑顔は変わらない。確かに速水もサッカー界で結構活躍してることは聞いてたけど…。
イケメンアスリート…ね。確かに。

「あ〜、久しぶりだな…」
「いやほんとに…」
「……。」
「……。」

「えっ、気まずっ!何この空気?」

横で聞いていた鳴が空気をぶち壊し、俺と速水は苦笑した。

「つーかさ、一也!」

そんなことにはお構いなしに俺の肩を抱き寄せる鳴。

「お前光ちゃんと別れたの!?」
「……。」

やっぱきたか…。
速水も気になってたのか、興味津々の目で俺の返答を窺っている。

「あっ!別れたんだ!?おい早く言えよ〜!そーいうことは!」
「うるせえ…」
「え…、ほ、本当に別れたのか?」

調子に乗る鳴とは反対に、本当に真剣な目で聞いてくる速水に、俺は焦りを感じた。別れたって知ったら…こいつ、また光に言い寄りそう。

「まあ、一時期ちょっと…でも最近また、仲良くしてるけど」
「え、あ…そ、そうなんだ…?」

…どういうこと?と、速水の目が疑問に満ちている。まあそうだよな。意味わからないよな。

「てか光ちゃんが芸能人になるなんて聞いてなかったんだけど!テレビで見てびびったわ!」
「あーうん…」
「一也いいの!?光ちゃんがあんなキスシーンなんかしちゃって!」
「…仕事だし」
「えーっ!俺だったら絶対嫌だね!」

俺だって嫌に決まってんだろ…しかもあのキスシーン、相手の男がやけに熱入ってたし…。

「まあ…仕方ないよな、それは」

ははは、と苦笑を浮かべながら、俺をフォローしてくれようとしたのか、それとも自分に言い聞かせてるのか…速水が言った。

「撮影入りまーす!アスリートの方々、こちらに並んで下さーい!」

撮影がいよいよ始まろうとして、俺たちはゾロゾロと移動を始める。その時速水がコソッと俺に近づいてきて、耳打ちしてきた。

「なあ、この後…時間ある?」
「え…、」



***



「ごめんな、急に」

俺は速水に誘われて、撮影場所だったビルの近くにある飲食店に入った。

「いや、ちょうど昼飯だし」

俺は言って定食を注文する。速水も自分の食事を選んで、俺たちは一息ついた。

「…で、何?」
「あ、うん…あのさ…」

なんか…高校の時もこうやって、速水に呼び出されたな…。

「…花城さんのこと…なんだけど…」

…そう、光のことで。

「…うん」
「なんか…去年、大変だったみたいなことは噂で聞いたんだけどさ…具体的に何があったの?」

それは…俺も詳しくは知らない。

「…それは俺が話していいことじゃないから」
「あ…そうだよな、悪い…」

速水は素直に申し訳なさそうに言ってお茶を飲んだ。

「じゃあ…、」

まだ聞きたいことがあるらしい。

「今…また仲良くしてるとか言ってたけど…」
「……。」
「もう付き合っては、ない…ってこと?」

少し期待の混じった目で聞いてくる速水に、何も驚きはなかった。ただ、堂々と俺の彼女だと言い返せないことが悔しい。

「…お前、そんなこと聞くってことは、今も光のこと好きなの?」

光。
…俺がそう呼んだ瞬間、速水の目が戸惑った。そうだよな、俺と光が付き合い出してすぐ、こいつは俺たちから距離を置いたから…よく知らないんだ。
付き合ってる時の俺と光がどんなだったか。

「あ…、」

速水は戸惑いが露わになったことを恥じたように苦笑して、だけどすぐに表情を固めた。

「…そう、だよ。俺はずっと好きだよ」

…この素直さが俺にあったら…もう少し光と上手く行ってたのかも…。

「…まあ…、今は付き合ってはない」
「…そうなんだ」

速水は含みのある俺の言い方は追求せず、腑に落ちない顔で頷いた。

「でも、最近また、会ったりしてる」

速水の顔が固まった。

「……。」

速水は手元に視線を落とし、全く手をつけていない定食セットを見つめた。

「そうなんだ…」

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