朝、珍しく…光から連絡が来ていた。

今日の午前中あいてる?
連絡ください

と、なんとも素っ気ない内容だが…

光から誘われるなんて付き合ってた頃でもレア中のレア!!俺はスマホに飛びついた。
今日の午前中というし、もう朝の8時になろうとしている今LINEを返してももどかしい。
俺は一思いに電話をかけた。

しばらくの呼び出し音の後、通話が繋がる。

「あ…もしもし。」

聞き慣れた光の落ち着く声がして、付き合ってた時のような感覚がして…俺の胸は幸福に包まれる。

「もしもし?今日の午前空いてるけど…何?」
「あ、あのね…。…どこから説明しようかな…」

…ん?単純に会おうと言うわけではないのか…?

「間宮先輩っていたでしょ?」
「…え?」

そして切り出されたのは意外すぎる名前。しかも、今はもう光となんの関わりもなさそうな人物の…。

「先輩仲良かったよね?」
「えー、あー…え、あいつが何?」
「昨日の夜…仕事の知り合いの人たちと食事に行ったんだけど」
「うん…」
「そこに間宮先輩もいて」
「…なんで?」
「共通の知り合いがいて、一緒にって誘われて…ってそれはいいんだけど。本題はね」
「…お、おう」

ツッコミどころ…というか、謎な部分が多すぎるが、ひとまず話を最後まで聞くことにする。

「そこで間宮先輩、お酒飲んで倒れちゃって…昨日入院したの」
「え!?」
「あ、大したことはなくて、様子見のためだけで、今日もう退院できるんだけど」
「あ、そう…」
「それでお店に間宮先輩の荷物とか置いてきちゃってて、それを今日…お見舞いがてら渡しに行きたくて」
「…うん」
「…午前中あいてるなら一緒に来てくれない?」

なんだろう…この、嬉しいのかモヤるのか複雑な感情は。

「まあ…いいけど」
「本当?ありがとう。じゃあ、10時に中央病院に来てくれる?」
「…わかった」

じゃあまた、と電話が切れる。
…どーいうこと???



***


「あっ、先輩」

手を振りながら駆け寄ってくる光に頬が緩んだ。謎の状況だけど、こうして会えるのは素直に嬉しい。

「ごめんね忙しいのに」
「いや、午前は暇だから」

病院に入り、ナースステーションに声をかけ、間宮が入院してるという病室へ向かう。

「なんで間宮も来てたの?」
「高坂さんのお友達と知り合いみたいで…最近音楽の仕事してるみたいだよ」
「え…、へぇー…」

その飲み会、高坂もいたのかよ…。
つーか音楽の仕事って…本当に夢叶えたのも驚き。
情報量が多すぎる。

「あ、ここ。」

光が立ち止まり、病室のドアをノックした。

「はい。」

低い声が響き、光がドアを開ける。

「失礼します。」
「えっ!花城さ…」

喜び溢れる声が響いたと思ったら、言い終えぬうちに俺と目が合い、固まる間宮。

「…えっ、なんでいんの!?」
「こっちのセリフな」

「間宮先輩、これ先輩の荷物と上着です」

光が持ってきた紙袋をベッドの横に置いた。

「あ、おぉ、ありがとう花城さん」
「いえ…」
「……。」
「……。」

そして静まり返る気まずい雰囲気。

「…え、つーか…」

その沈黙を破ったのは間宮だった。

「…なんだよ今もそういう関係かよ〜…」

顔を覆って点を仰ぐ間宮に、光は少し顔を赤くして俺を見上げ、はにかんで俯いた。
…もしかして、間宮からの好意に気付いてて…わざと俺を誘った?牽制するために?
しかも倉持じゃなく、俺を。
…やばい。嬉しい。

「これ…一応見舞い。」

だけどはっきり二人の間で言葉にしたわけじゃない。ここで肯定してそういうことにしちゃうのは、なんかずるい気がするし…あとでちゃんと光と言葉で確認し合いたい。
だから間宮の言葉にははっきり明言はせず、俺は病院前の店で買ったフルーツジュースを棚に置いた。

「あ〜二日酔いきちぃから助かるわ…」

間宮は早速ジュースの蓋を捻って開けて勢いよく飲み始める。

「酒飲んで倒れるってお前…気をつけろよ」

まったく、と呆れて言うと、間宮は「うっせ」と顔を顰める。

「…あの」

すると光が遠慮がちに口を開いた。

「庇ってくれた…んですよね?」
「え?」
「私が…お酒勧められてたから…」

…え?
間宮に視線を移すと、間宮は不機嫌にも見える真剣な顔になって、ジュースの蓋を弄んでいた。

「…花城さん、あいつ気をつけた方がいいぜ」

その言葉は、光の問いかけを肯定してると捉えるのに十分だった。

「かなり強い酒だった」
「……。」
「俺結構強いんだけどなー」

ガシガシと頭を掻いて飄々と呟く間宮。

「あの…本当にありがとうございました。…ごめんなさい。」

光はそう言って静かに頭を下げる。花城さんのせいじゃないから、と間宮はカッコつける。

「え…その、あいつって…誰?」

俺が尋ねると、神妙な顔で沈黙する光を見て、間宮は俺に視線を移し、口を開いた。

「高坂颯だよ」


***


病室を後にして、俺と光は病院を出た。

「光、このあと予定あんの?」

よかったらお茶でも…そう引き止めようとした。少しでも長く光と過ごしたくて。

「ごめん。これから撮影があって」

光はさっぱりと、スマホで時間を確認しながら言った。

「あ…そーなんだ」

…やっぱ俺、間宮を振るために都合よく使われただけ…じゃないよな?

「じゃあ…また」

光は少しぎこちなく笑って、タクシー乗り場に向かって行こうとした。

「あ、待って」
「え?」
「撮影って…高坂もいるんだろ?」
「……。」
「大丈夫なのか?」

光は視線を落としてまた俺を見上げ、にこっと微笑んだ。

「大丈夫だよ、スタッフさんとかみんな周りにいるし」
「…まあそうだけど」

それでも心配…だけど、俺にできることもあまりない。
午後の試合を放棄して光に付き添ってるわけにはいかないし、光だって…これが仕事なのだから。

「…撮影終わるの何時?」
「え?…夜10時…くらいかな…なんで?」
「迎えに行く」
「…えっ?」

光はしばらく言葉を失って、それから、苦笑いを浮かべた。

「…なんで?」
「いや心配だから」
「でも…なんで先輩がそこまでするの?」

なんでって…
…恋人…ではないけど…

……恋人じゃ…ないんだよなぁ…

「それは…だって…」
「……。」

窺うような光の目。いやでもこのタイミングでより戻そうって言うのはなんか…、ついですぎる。

「…あの…。大丈夫だから。」

光は沈黙を終わらせてそう言って、踵を返してタクシー乗り場に向かって行ってしまった。
…何やってんだ俺…、早いとこケリをつけなきゃ。

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