試合終わり、寮へ向かうバスの中でスマホを開く。
時間は9時過ぎ…帰ってすぐまた出れば、光の仕事終わりには間に合うけど…

…何も連絡来てないな。

優柔不断な俺に呆れたような光の微笑が蘇る。

…やっぱもう一度ちゃんと、はっきり言おう。
よりを戻そうって。

そうしたらもっと堂々と、光のそばにいられる。それに…光の気持ちも知りたい。

また付き合いたいと伝えた時…否定はされなかった。


俺はLINEで光に、大丈夫か?何かあったら連絡して。とだけ送信してスマホを閉じ、車窓の外を眺めた。


***


…既読無視…!!

翌朝寝不足気味で目覚めた俺はスマホを見て愕然とした。
あいつまさか…
何もなかったから連絡しなくていいや、なんて思ってんじゃねーだろうな!?
いや…あり得る…ていうか絶対そうだ…。

相変わらずだなーあいつ…。
こっちの気も知らないで…。

まあ…無事ならいいけどさ…。

ちょっと落胆しつつ今日は取材が入っているため早めに球場へ向かう。取材は倉持も一緒なので、2人で送迎車に乗せられて昼より少し早く球場入りした。
更衣室でユニフォームに着替えて練習場所へ行くと、すでにテレビ局の人たちが待機していた。

「初めまして!今日はよろしくお願いします」

いち早く俺たちに近寄ってそう挨拶をしてきたのは、今流行りのアイドルグループのメンバーらしき女の子だった。この子の名前までは知らないが、先輩たちから聞いてアイドルグループの名前は知っている。

「PTBの佐藤まりあです。よろしくお願いします!」

女の子はそう明るく挨拶をし、心なしか隣の倉持よりも俺を見つめてきた。

「御幸です。」
「倉持です。」

…なんとなく何かを察知したような倉持の批判がましい視線も感じる。

「よろしくお願いします。あの…高校時代からずっと見てました。」

佐藤さんはそう言ってじっと俺を見上げる。…なんか嫌な予感。

「あー、ども…」
「私も中学生までソフトボールやってたんです!」
「へぇー…」
「御幸選手にずっと憧れてたので…今日お会いできて本当に嬉しいです!」
「あぁどうも…」

どんなに鈍くてもわかる…この子からの俺への好意…。勘弁してくれ…。
倉持もなんか睨んでくるし。

「じゃあ撮影始めますので、御幸選手と倉持選手はこちらに立っていただいていいですか?」
「あ、はい」

撮影スタッフに誘導されて俺と倉持は球団マークの壁の前に立たされた。すると俺の隣に佐藤さんもやってきて俺を真ん中にする形で並び、カメラがこちらに向けられた。

「では最初に挨拶と、佐藤の方からの質問に答えていただく形でやっていきますので」
「はい」
「生放送ではないので、気楽にやっていただいていいんで」
「はい」

では始めまーす、と合図があり、俺たちはカメラに注目した。

「…はい!では本日は、ダイエーの御幸選手と倉持選手にインタビューをしに参りました!」

若くてもさすがアイドル。佐藤さんはハキハキとした喋りでしっかりと進行し始める。

「お二人は同じ高校のご出身なんですよね〜?」
「はい。」
「甲子園、見てました!特に御幸選手…、あの私自身も中学のときソフトボールでキャッチャーをしていたので!本当に憧れでした!」
「それはどうも…」
「御幸選手、最近女性誌でも表紙を飾られましたよね!本当にカッコよくて女性ファンも多いですけど…理想の女性のタイプってどんなですか?」
「え?あー…いや特にないっす」

…野球に関する質問しろよ!こんなの放送されたらまた好き勝手騒がれんだろうな〜…面倒くせぇ…

「特にないんですかぁ?あはは!こういうクールなところが人気なんですね〜!」

佐藤さんは楽しそうに飛び跳ねて、だんだん俺の方に身を寄せてくる。それに合わせて俺も少しずつ倉持の方へ避難する。倉持が鬱陶しそうに俺を睨む。

「倉持選手は今年から育成選手を卒業されてレギュラー入りしてから大活躍ですが、何か原動力があるんですかぁ?」

…やっと倉持への質問に移った。しかも、ちょっとまともな質問だし。素直にプレーだけを見て評価してもらえるこいつが少し羨ましい。

「原動力っすか…、そうっすね…」

倉持は少し考えて、急にカメラの方に身を乗り出した。

「女優の花城光さんがボクの原動力です。」

な…、
…何言ってんだコイツ!?

「あはは!花城光さんがお好きなんですか〜?」
「えぇ、ボクの女神です。」
「あははは!」

倉持の口調からして冗談と捉えられたのか、佐藤さんだけでなく撮影スタッフからも笑いが起こった。

ていうか…
倉持…どーいうつもりだこいつ!?

「え、御幸選手は芸能人で言うとどなたが好みのタイプなんですか〜?」

倉持がおかしなことを言うから佐藤さんの矛先がまた俺に向いた…。
…倉持に対抗して、俺も光の名前を出すべき…か?いやそんなことして高校の時付き合ってたことが広まったり…それで周りに騒がれたりしてよりを戻すのが難しくなったら嫌だ。
俺はうるさい女のファンが多いし…光もガチ恋気味の男ファンが多い。
絶対厄介なことになる。

「いや俺は…」
「こいつは高校の時から長澤まさみファンです。」

隣の倉持が調子に乗って余計なことを言い出した。

「え〜そうなんですかぁ!?」
「はい、こいつ高校時代に写真集とかDVDとかも寮で見てましたもん」
「…倉持〜〜…?」
「おキレイですもんね〜長澤さん…」

余計なこと言いやがって…!!
このことがもし光に伝わったらどうしてくれんだよ…!…いやそれが目的か!?姑息な…。

「あのぉちなみに〜…長澤さんのどんなところが好きなんですか…!?」
「いや…、」
「長澤ちゃんの笑顔さえ見られれば幸せっていっつも言ってましたこいつ。」
「倉持!!」

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