朝練を終えて教室に入ると、一番に目を惹く女の子。
俺の隣の席の、花城光さん。
入学式から間もないのに、1年の間では一番可愛いともうすっかり有名だ。本人は知らないだろうけど…。
…そして今朝の朝練中の出来事で、少なくとも野球部の中では、先輩たちにも知れ渡ってしまった。
花城の存在が。
「…花城!おはよう!」
勇気を出して挨拶をしながら自分の席へ向かう。数人の男たちが、驚きと羨望の混じった視線を向けてくる。
花城さんは友達の鷹野と話していた視線をこちらに向け、微笑んだ。
「おはよう。」
毎朝、この瞬間のためにきつい朝練も頑張れる。
「東条くん、私にはー?」
花城の前に立っていた鷹野が揶揄うように言う。鷹野は俺の前の席で、花城と一番仲のいいクラスの女子だ。
「あはは、鷹野もおはよう!」
「おはよ!朝練お疲れー」
「サンキュー。」
鷹野は誰にでも気さくで、その人望の厚さから、入学して間もないというのにクラス委員長に推薦された人物だ。
「花城、さっき…ごめんな、うちの先輩が」
「え?あ…」
にわかに顔を赤くする花城。可愛すぎる。
「えーっ、何なに、何があったの?」
興味津々に鷹野が尋ね、俺が経緯を説明した。
「で…御幸先輩が名前なんて聞くから、他の先輩たちも注目しちゃってさ」
気まずかっただろ、と花城に言うと、花城はまだ赤い顔で苦笑いを浮かべた。
「いや、大丈夫…。」
すると鷹野は好奇心に満ちた満面の笑顔で身を乗り出してくる。
「えーでもさでもさ、その先輩、光に一目惚れしちゃったってことー?」
「ちょっと、変なこと言うのやめてよ。」
「だって名前聞くってそういうことじゃーん!その先輩イケメン?」
「普通。」
キッパリと言い切る花城に、今度は俺がつい苦笑した。あの御幸先輩を、普通と言い切るとは…。まあ、花城自身ものすごい美人だからなー…。
「なーんだ、つまんない。」
「どう言うこと?」
「やっぱ光の隣に並ぶのは、超絶イケメンじゃないとさー!」
「何それ。」
呆れた花城に悪気なく笑う鷹野。チャイムが鳴って、あっと慌てて鷹野が席につき、朝礼の後すぐに一限が始まる。
俺はそっと、隣の花城の横顔を盗み見る。
真剣に黒板を見つめ、時々手元のノートに視線を落とし、白魚のような手でペンをとり、板書をノートに写す花城。柔らかな亜麻色の髪が肩口から落ち、さらりとその横顔が隠れる。残念に思った直後、彼女の左手がその髪を耳にかけーー不意に、花城がこっちを見た。
突然ぶつかる視線。見つめすぎたのだ。不思議そうに目を瞬く花城に、俺はヘラっと誤魔化すように笑って、慌てて俯いてノートを見た。
心臓がどくどくと跳ね、顔が熱くなる。
どうか気づかれていませんように。
今はただ、そう願うしかなかった。