あの子だ。
廊下を向こうから歩いてくる、人目を引く美貌を持つ女子生徒。
ついこの間、朝練の最中に飛んでいったボールを拾ってくれた、あの、とんでもなく可愛い子。
御幸が名前を聞いて、花城、と名乗っていた、あの子。
風に髪を靡かせて、友達と談笑しながら歩いてくる。
何か声をかけようか。かけたいけど、一体どうやって?
今すれ違ったら、またいつ会えるかわからない。自分のことを知って欲しい。挨拶くらいはできる知り合いになりたい。
だけど…。
「花城。」
ギョッとして、隣の御幸を見た。最も簡単に花城さんに声をかけたこの男は、嬉しそうな笑顔で花城さんに歩み寄って行ってしまう。
この間もそうだった。花城さんのあまりの可愛さに怯んで突っ立っていることしかできなかった俺たちの前で、こいつだけは、呼び止めて名前を聞いた。
あの時は驚いたし、それにかなり…悔しかった。
花城さんはちょっと驚いた顔で御幸を見上げ、それからはにかむように微笑んだ。
「よっ。」
「…どうも」
そっけなくも自分を覚えていたらしい反応に御幸はまた嬉しそうにする。あいつ、普段はあんなに人に愛想良くしねえのに、可愛い子には別かよ。
「えっ、この先輩誰?」
「この間の…。」
「…えっ!あの時言ってた!?」
花城さんは友達と何やらヒソヒソ耳打ちし、友達は目を丸くして御幸を見上げた。
「えーっ、イケメンじゃん!」
その言葉にはさすがの御幸も、えっ、とにわかに頬を染める。
「いやあ照れるなあ…はっはっは」
「全然イケメンじゃないから!」
「……。」
しかし花城さんの否定を喰らい、御幸はすぐに肩を落とした。
「もう行こっ」
「え〜いいのー?」
恥ずかしそうに友達をひっぱって行く花城さんに、御幸は邪気のない顔でまたねーと手を振る。俺の横を通り過ぎた花城さんは、当然気づきもせず…。というか、俺のことなんて知らないよな…。
「何声かけてんだよ。」
むかついたので御幸の足を蹴ると、御幸は全く堪えていないヘラヘラした顔で俺を見る。
「え?倉持も話したかった?」
「ちげえ!うぜえ!」