「おい!!大変!!!」

今日は地方予選決勝…。
試合前の準備中、トイレに行っていた麻生が血相を変えて飛び込んできた。
何事だ、問題発生か、と一瞬で殺気立つ空気の中、麻生はその勢いのまま言い放った。

「花城さん来てる!!!!!」

「……。」
「……。」
「……。」

一瞬で拍子抜けした空気。だけど同時にいい意味で肩の力が抜けたのか、レギュラー陣はそれまで張り詰めていた表情が和らいだ。

「だってよ、御幸。」
「いや…なんで俺に言うんすか」

亮さんがさっそくニヤニヤしてからかってくるし…。

「どこにいた!?」
「応援席のほう!!便所行く途中!!そこの通路!!」

「いいの?行かなくて?」
「……。」

亮さんに小突かれる。けど…花城、もしかして俺の応援に?
…いや。哲さんか。

少し苦笑して、それでも、と俺は立ち上がった。

「お?行くの?行ってらっしゃ〜い」
「…トイレに行くだけですから」


***


薄暗い通路を進むと、応援席に出る通用口のそばに、その姿を見つけた。

「花城!」

高い位置で結ばれた長い髪が揺れ、くるりと振り返った、女の子。
淡いブルーのフリルがついた爽やかなブラウスに、白い清楚なショートパンツ姿。ポニーテールがよく似合う、花城らしい涼しげな装い。

「うわ、でた。」

にやりと笑うその愛くるしい笑顔に、俺の口元も緩んでしまう。

花城の隣にはいつもの友達…鷹野もいて、いつも通り元気に挨拶してきた。

「ユニフォーム似合ってますねー!」
「ホント?イケメンに見える?笑」
「あはは!ほんと面白ーい」
「……。」
「コラ花城!その冷たい目やめなさい!」

通路に鷹野の笑い声が響く。だけどそれも応援席のほうから響く喧騒の中では小さく感じた。

「すごい人来てますねー」
「まあ決勝だからな」
「頑張ってください!」
「おー、サンキュ」

鷹野は気さくで陽気で良い奴だ。俺は笑顔でうなずいて、隣の花城を見た。

「花城さ〜ん、御幸先輩頑張ってね♡は?」
「うざ…」

わざとらしく耳に手を当てて花城のほうに傾けると、花城は目を細めて身を引いた。

「はっはっは!素直じゃねーんだから…」
「あーっ!!一也!!」

げっ、と顔を歪めた俺を見る、花城と鷹野の丸くなった目。
い、今の声は…。

「何試合前に女の子と喋ってんだよ!余裕だなー!」
「鳴…。」

振り向くとやっぱりいた、真っ白なユニフォームを着た集団の先頭に立つ、よく知った顔…。後ろには白河やカルロスたちもいる。

「君たち〜コイツ薄情モノだからやめといたほーがいいよ!」
「おい…」

鳴が俺を押しのけて花城と鷹野を見た。
そして…固まった。と思ったら、花城の顔を覗き込んで叫んだ。

「…え!!?めちゃくちゃ可愛い!!!」

えっ、と引きつり赤くなる花城の顔。鳴の言葉でほかの稲実生たちも花城の顔を覗き込み、互いに顔を見合わせてにわかに盛り上がる。

「まさか彼女じゃねーだろうな!?」
「ちげぇよ」
「なんだーよかった!!そうだよねーこんな可愛い子が一也なんかと!」
「どういう意味だよ」

俺と鳴のやりとりをひきつった苦笑いで見る花城と、完全に面白がっている笑顔で見る鷹野。

「それより!君名前なんて言うの!?」
「……。」

強引な鳴に顔を覗き込まれ、花城は口を引き結んで戸惑った顔をした。

「言いたくねーってよ」
「一也は黙ってて!ねぇ俺のこと知らない!?稲実の成宮鳴!テレビとかで見たことない!?」
「いやぁ…」
「知らねーってよ」
「一也は黙っててってば!」

鳴はさらに距離を詰めて花城の手をつかんだ。

「ねえ!名前だけでも教えてよ!」

その圧に負けた様子で、花城は口を開いた。

「花城…光です」
「光ちゃん!?」

ぎゅっと、花城の手をつかむ手に力を入れる鳴。

「俺君のために勝つから、見ててよね。」
「いや…花城はうちの生徒なんで」

チョップで鳴と花城の手を切り離し、俺はその間に入った。

「なんだよ邪魔するなよ一也」

不満げに俺をにらむ鳴を無視し、俺は花城たちを振り返って言う。

「おい、お前らもう行け」
「あ、は〜い」
「はい…」

無視するな!と鳴がわめくのを尻目に階段を上がろうとした花城が、最後に俺を見上げた。

「…頑張ってください。」

じゃ…、と、照れくさそうにそっけなさを残して、花城は鷹野と階段を昇って行った。
たったこの一言だけで…じわじわと胸が熱くなった。

「聞いた?うちのエース、たった今知り合った女子の為に勝つんだってよ…」
「俺らとの絆は何だったのかねぇ…」
「かなしいなぁ」
「うるさいよお前ら!!」

021

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