最近光と会えてない…。もうかれこれ1か月くらいになる。
遠征もあったし、俺もなんだかんだ忙しかったけど、この間のオフの日に連絡してみたら予定があると光に断られて、だけどあの日、御幸のヤローは夜遅くに髪を濡らしたまま帰ってきて…。

…考えすぎであってほしい。

俺は起き上がってスマホを手に取った。

「近いうち会えない?」
「渡したい物あるから」

…理由がないとまた断られそうな気がしてしまい、俺は文章を付け足した。
それから顔を洗って練習へ向かう準備をしていると、スマホが受信音を鳴らした。飛びつく勢いでスマホを手に取る。通知欄にはLINEの通知が来ていて、それは期待通り光からの返信だった。

「明後日の夜はどうですか?」

明後日か…。後輩に誘われてたけど、光とはまたいつ会えるかわかんねーし…なにより御幸に先を越されたくねぇ。
後輩は断るか。
俺はLINEに返信をして、浮かれる足で部屋を出た。


***


「はいこれ!お土産」

翌々日の夜、レストランの個室で光に小さな紙袋を手渡すと、光はぽかんとして紙袋と俺を見比べた。

「えっ、またですか?そんな、いいのに…すみません」

そして笑いながら言う光の笑顔に胸が温かくなる。

「いやいや、俺がやりたくてやってるだけだし…」
「開けていいですか?」
「あ、うん」

紙袋を開けて中身を取り出す光。その笑顔がぱあっと明るくなった瞬間、俺の顔もにやける。

「チューリップ?可愛い」

今回のは、真っ赤なチューリップ。花言葉は「愛の告白」。

「なんでチューリップなんですか?」
「あ〜…なんか光っぽいなって…ヒャハハ」
「え?じゃあこの間のガーベラは?」
「それも…光っぽいなって」
「えぇ?」

光が笑い出し、ふわっと花が咲いたみたいに周りが明るくなる。

「ガーベラとチューリップって全然違うじゃないですか?」
「そ、そうか?」

「お待たせいたしました〜」

店員が料理を運んできた。個室の中においしそうな料理のにおいが広がった。

「ありがとうございます。」

光は笑顔で言って、チューリップの置物を紙袋に戻し、バッグの中にしまった。
そしていただきます、と礼儀正しく手を合わせ、料理に手を付ける。一口食べて、おいしい、とほほ笑む光に胸がきゅんと鳴る。

「…先週は…忙しかったの?」

先週…光を誘って、予定があると断られた日。そして…御幸が夜遅く帰ってきた日。
何気ない風を装って探りを入れてる自分に少し嫌気がさす。

「あ…えっと…両親の命日で」
「あ…。そ、そうだったんだ、ゴメン」

そして帰ってきたのは予想外の事実。俺はバツが悪くなって慌てて謝った。光は微笑んで、気にしていない風に、いえ、と首を横に振った。

「そっか…」
「……。」

ばつが悪くなった俺をフォローするような笑みを浮かべて、光は唐揚げを指さした。

「レモンかけちゃっていいですか?」
「あ、うん」

暗くなって光に気を使わせたらだめだよな…切り替えよう。

「…あ、そういや昨日おやっさんとこ行ったんだけどさ、新メニュー増えてて」
「え〜!なんですか?」


***


楽しい時間はあっという間で…。

レストランを出て歩いて光のマンションの前まで送っていく。
並んで歩けるのはうれしいけど、確実に別れの時間が近づいてくる、せつない時間でもある…。

「…そういや今度また北海道行くんだけど、何か食いたいもんとかある?」
「だから、もうお土産はいいですってば。」

光が笑い、それだけで俺はうれしくなる。
光との時間に幸せを感じながら街灯が照らす道を歩き、もうすぐマンションが見えてくる頃。

「…御幸とは最近、会ってんの?」

どうしても…確認したかった。あいつが今、どれくらい光の近くにいるのか。

「……。まあ、たまに…」

光はさっきまでの無邪気な笑みを消し、少し憂いを帯びたほほえみを浮かべる。

「…そっか」
「……。」

…あ〜…なんで詳しく聞けねえんだ俺は…!!
でも…まだ俺と会ってくれてる…ってことは、御幸ともそういう関係ではないってことだよな…?

マンションが見えてきて、俺の足は重くなった。まだ名残惜しい…でも帰りたくないなんて…言えねぇ…。
光を困らせるだけだし、そんな関係じゃないし…いや、違う…断られるのが怖いんだ。

…なんて考えている間に、もうマンションの入り口の前。

「あ…。…じ、じゃあ。」

結局何も切り出せずに、だけど光が何か言ってくれるんじゃないかって期待も捨てきれないまま、俺はぎこちなく手を挙げる。光はそんな俺の挙動不審さに少しはにかみながら、俺を見上げた。

「…じゃあ。」

そう言って、あっけなくマンションに入っていく光。一度だけ俺を振り返って、手を振って。
手を振り返して光の姿が見えなくなるまで見送って、俺は一気にむなしさに襲われた。

片思いって……辛い。

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