「お疲れ。」

金曜日の夜、俺は光のマンションの前まで車で光を迎えに来た。半ば強引に取り付けた、今日の食事の予定。この間のこと、きちんと話しておきたい。

「…お疲れ」

少しそっけない様子で、光は車に乗り込む。…なんでだ!?あの日…俺なんかまずいことした?…セックスが良くなかった?いや、そういう理由ではないとは思うけど…。
というか…黒い大人っぽいワンピースで、髪もまとめて、唇には赤いリップ。なんかやけに今日は色っぽい装い…。

「…なに?」

俺の視線に気づいて光が俺を睨んできた。

「いや…、なんか今日可愛いなーって」
「は?」
「あ、いつも可愛いです」
「…うるさい。」

光は窓のほうに顔をそむけてしまった。照れてる。可愛い。

「じゃ、出発〜」
「……。」

俺は車を走らせた。レストランまではそれほど遠くない。
しばらく国道を走って、20分ほど車を走らせた後、レストランの目の前のコインパーキングに車を停めた。
店に入って個室に通され、俺たちはサングラスとマスクを外した。

「料理は予約してないからさ、食べたいもん選びなよ」
「うん」

メニューを開いて差し出すと、光が手を伸ばして受け取った。その右手の薬指に、キラリと光るものを見つけて…

「…えっ、ちょっと、それ」

その手を掴んで、引き寄せた。薬指に光る指輪…。間違いなく、昔俺がプレゼントしたもの。

「…なに?」

光は振り払うようにして手を引き抜いた。
そして、ついついニヤける俺の顔を、鬱陶しそうにしながらも赤くなる顔で睨んだ。

「…べつに、深い意味とかないから。」

「へぇ〜?」



照れているのかいたたまれないようにメニューに目を落とす光。
まだ持っててくれたんだ…。しかも俺と会う時につけてきてくれたってことは…光も俺との関係を前向きに考えてくれてるってことだよな?

「…私ラム肉のソテー」
「好きだな〜。」

店員を呼び、料理を注文した。
光はラム肉のソテーにバゲットのセット、ぶどうジュースと食後にモンブランとアールグレイティー。
俺はフィレステーキとライスのセット、辛口のジンジャーエールに食後はシャーベットとコーヒー。
店員が引き上げると、光は不思議そうに俺を見た。

「お酒飲まないの?」
「飲まねえよ。光もまだ飲めないしー」
「…別に、飲めばいいのに」
「一人で飲んでもつまんねえもん」

別にそこまで、酒好きじゃねえし。

「ま、とりあえず…」

俺は仕切りなおすように言って、バッグから小さな箱を取り出した。

「はい。誕生日おめでとう」
「え…。」

光が驚いてぽかんと固まる。再度、ほら、と箱を差し出すと、光は躊躇いながら受け取った。

「そんな…いいのに」

喜んでくれるかと思ったのに、光の困ったような悲しげな表情を見て、俺は戸惑った。

「なんでそんなカオすんだよ。ほら…開けてみ?」
「……。」

だけど無理して笑って光に促すと、光はゆっくりと包装を解いていく。まるで遠慮するような手つきで。
そして箱を開いて、そこに収まったネックレスを見て…それでもまだ困惑した表情で俺を見上げた。

「え、こんな高価なもの…」

確かにそれは、先輩たちから聞いた、女の子に人気の高級ブランドのジュエリー。光の性格上、別に高級ブランド好きというわけではないことは知ってたが、いいものをあげたかったし、俺も今はそこそこ稼いでいるし、光も立派な女優。ちゃんと光に似合うと思ったし、光に見合ったものだと思ったのだけど…。

「いやいや、これでも俺ケッコー活躍してるんだぜ?」
「…それは知ってるけど…」

光の表情が晴れず、俺は少し焦った。

「だって、そんな、私…」

戸惑いながら言いかけて一瞬口をつぐんだ光の、言おうとしたことがわかってしまって、俺は言葉を失った。
…恋人でもないのにって。光の表情はそう物語っていた。

「も、もらえないよ」
「なんだよ、そんな風に言うなって」
「だって…」
「このくらい、大したもんじゃないから」

そう言って、ちょっとだけしまったと思った。本当は大本命ど真ん中の、気合を入れまくったプレゼントだった。なのに俺自身がそれを否定してしまった。これじゃもう、伝えられない。

今日…言おうと思ってた。ヨリを戻そうって。

「…ほら!いいから貰ってくれよ。」
「……。」

戸惑った顔で、箱に視線を落とす光。
ちょっとは…喜んでくれると思ったんだけどな…。

「…ありがとう」

申し訳なさそうに憂う顔で光は言って、箱をバッグにしまった。
昔…このネックレスとは比較にならないほど安いあの指輪をプレゼントしたときは、あんなに喜んでくれたのに。そりゃ、光は高価なものにこだわる子じゃないって知ってるとはいえ…、まさか悲しむなんて。

どうしたら光が笑ってくれるのか…、なぜだろう、今全く分からなくなった。

好きな食べ物も、好きな場所も、好きなことも…何でも知っていると思っていたのに。
なんでこんなに、遠くなってしまったんだろう。

料理が運ばれてきて、いただきます、と光がつぶやく。昔から変わってない。俺も、いただきますと呟いて、ナイフとフォークを手に取った。

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