「大丈夫?」
「え?」

食事に誘った光がなんだか今日はぼーっとしていて、俺が声をかけるとハッと顔を上げた。

「疲れてる?」
「あ…ごめん、そうかも」
「撮影忙しそうだもんな」

この間からまた新しいドラマの撮影が始まったと聞いた。監督のこだわりが強くて何テイクも撮る人で有名だとも。

「今度の共演者の…神田龍ってどんな感じ?」
「え?あー…面白くて良い人だよ。同い年だし、気さくで話しやすくて」
「へー…」

神田龍…子役時代から芸能界に入り、声優としても有名な、爽やか好青年風の俳優。超絶イケメンというわけではないが、無害そうな笑顔で女人気も高い…。
なんでそいつが気になるかというと、光のインスタの投稿で、やけに仲が良さそうで…巷ではお似合いだなんて言い始める奴もいて、「りゅうひか推し」なんてタグもできるほど。
芸能界にはそれほど詳しくない俺でも、まだドラマ放送前だというのにこんなに話題になってるのは珍しい…と思う。

「…何?」

俺の反応に含みを感じたのだろう。光が窺うように微笑んだ。

「いやなんか、インスタで仲良さそうだったからさ…」
「インスタ?」

気恥ずかしく白状する俺に、光はキョトンと目を瞬く。

「インスタは見てなくてよくわかんないけど…」
「え!?あれ、光がやってんじゃないの!?」
「え?うん、SNSは事務所が…」
「……。」

な…なんだ。いや、でもまあ、仲良さそうな写真であることに変わりはないけど…。

「え…私のインスタ見てるんだ」

少しはにかんで俺を揶揄うように見つめる光に、胸を射抜かれる…。

「そりゃ…見るだろ。す、好きな子のインスタだし…」
「……。」

勇気を出した俺の反撃に、光は顔を赤くして息を飲み、小さく噴き出した。



***



光を送ってマンションの前まで来て、名残惜しくなった俺は足を止めた。

不思議そうに振り返る光の顔を見つめる。あー、このまま…一緒に同じ部屋に帰れたらな…。

「…後5分ちょうだい。」

ポケットの中で硬い物を握りしめて言うと、光はふわりと微笑んだ。

「…いいよ。」

そうしてマンションの前の小さな公園に入り、街灯の下のベンチに光を座らせる。

「はい、これ」

そしてポケットから取り出した小さな物を光に手渡した。

「え?」

驚く光に包装を解くよう促すと、光は茶色い緩衝材を剥がしていく。

「あ…出た、これ」

ふふっと笑みを浮かべる光の手の中には、赤い薔薇の置物。

「もういいって言ったのに」
「光の部屋なんもないから。華やかにしてやりてえんだよ」
「ふふ…ありがとう」

それも本当だけど。他にも意味は…ある。

「ま…俺の気持ちでもあるけど」

そう呟いて、ちら、と光を見る。光は少し目を瞬いて、手の中の薔薇をじっと見つめ、窺うようにまた俺を見上げた。

「え…?」

その唇が少し緩んで微笑み、頬が赤くなる。

「…どういう意味?」
「そのまんま。の意味。」
「……。」
「花言葉詳しい?」

俺の言葉に確信を持ったように真剣な顔になり、息を呑む光。

「ま…詳しくなくても知ってるか、赤い薔薇の意味くらい」
「…え…。」
「そういう事だから…俺は。最初から。」

最初の…ガーベラからずっと。
心を込めて光に渡してた。

光は俯いて、薔薇をそっと握りしめた。

「いつ気づくかと思ってたけど。意外と鈍いな、光って。ヒャハハ」
「…ひどっ!」

もう…と剥れた後で、光も噴き出して笑った。

「冷えてきたし…そろそろ中入んな。」
「…うん」

光は立ち上がり、マンションに向かって歩き出す。俺を振り返り、笑顔で手を振って…。

手を振り返し、光がマンションに入っていくのを見送って、俺は顔をにやつかせながら唇を噛んだ。
あー、早く…部屋に誘われる仲になりたい…。

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