「残念だったねえ…」
「…うん」
湧き立つ応援席を立って、光と二人で球場を出る。
決勝戦の結果は、青道の負け。甲子園出場権は稲実が手にした。
肩を落として帰っていく青道ユニフォームの集団が見えた。彼らはちょうどバスに乗り込むところで、私たちは何となく足を止めた。
御幸先輩の姿も見つけた。
いつも飄々としていて、ふざけて光をからかいに来る先輩は、今はうつむいて帽子の鍔がその表情を隠していた。けれど、醸し出す雰囲気からその心情がこちらまで伝わってくるようで、つい光を見ると、光は悲しそうな顔で御幸先輩のほうを見ていた。
***
「あ…東条くーん!」
月曜日の朝、部活の朝練を終えて教室に向かう途中で東条君の姿を見つけた。野球部もちょうど朝練を終えたらしい。
「鷹野!おはよー」
「おはよう!金丸君もおはよー!」
「おー、おはよ」
ふたりとも、思ったより落ち込んでいない様子でほっとする。というか…1年生からしたらまだまだこれからだもんね。
「試合残念だったねぇ」
「あ、鷹野応援来てくれてたんだよな。」
「うん、光と行ったよー」
「花城も来てくれてたんだ。」
「へー…」
光の名前を出すと男子はみんな色めき立つ。東条君と金丸君も例外ではない。
「光ヤバいの!行く途中の電車でも、球場ついてからもナンパされててさあ」
「へ、へぇー」
「しかも、アレ!あの人!対戦相手のピッチャーの…」
「…成宮さん?」
「そう!あの人に手なんかつかまれちゃって、名前聞かれてさあ、君のために勝つから!とか言われちゃってんの!」
「ええ…!?」
東条君と金丸君は顔を見合わせてにわかにはにかんだ。
「御幸先輩が知ったらどうなることやら…。」
金丸君がぽつりとつぶやく。あ、金丸君も御幸先輩のこと知ってるんだ。野球部の間では有名なのかな?
「その時御幸先輩もいたけどね。」
「えっ」
「……。」
私の言葉に二人とも目を点にし、瞬いて、興味津々の顔をした。
「その時の話聞きたいー?」
もったいつけて言うと、二人はまた顔を見合わせてから私に注目し、こくこくと頷いた。