「もっと自覚を持ってくださいよ。今日リテイク一番多かったですよ。」
「すみません…」
「こういうとこから評価されて、事務所にも影響するんですから」
撮影現場の端っこで、マネージャーに責められて謝る光ちゃんがいた。周りのスタッフはみんな遠巻きにそれを見ていて、同情の目を向けている。
「言ってること無茶苦茶…」
「あれはかわいそうだよな…」
「あのマネージャー、なんなの?」
「なんか偉いさんの息子さんらしいよ、事務所も何も言えないんだと」
「うわ〜…」
…だからいつもあんなに偉そうなのか、あのマネージャー。
俺はコーヒーカップをテーブルに置いて、二人に近付いて行った。
「そのへんにしません?」
ハッとして俺を振り返る目を丸くした光ちゃんと、マネージャーのぎくりとした顔。
「光ちゃん頑張ってますよ。リテイクなんて誰だってありますし。」
「…神田さんには関係ないので…」
「関係ありますよ〜、ほら、雰囲気も悪くなっちゃってますし…光ちゃんの集中力にも関わりますし。」
「このくらい…プロなら切り替えるべきって話です。」
「いやいや、あの…俳優も人間なんですよ。」
光ちゃんとマネージャーの間に立ちはだかるようにして言うと、マネージャーは言葉に詰まった。
「もういいです…失礼します」
マネージャーは踵を返して立ち去った。
「神田くん、ごめん…」
光ちゃんが申し訳なさそうに、そして不安そうに眉を下げる。あーあ、だから言ったのにあのマネージャー…プロ意識ないのはどっちだよ。
「気にしなくていいから。俺も口挟んでゴメン、あまりにも見かねたからさ」
「…そうだよね、私…」
「あのさ…余計なお世話かもしれないけど、ちゃんと考えなきゃダメだよ、自分のキャリア…」
「…え?」
不安に揺れる光ちゃんの目が俺を見た。こんなに…成功が約束されたような可憐な子が、見る人全てを魅了するような綺麗な子が、あんなマネージャーに潰されるところなんて見たくない。
「事務所なんて他にいくらでもあるんだから。事務所も…仕事も付き合う人も、自分を大事にしてくれる人を選びなよ」
「……。」
「勿体無いよ。光ちゃんは本当に…素敵な子だからさ。」
それは心からの言葉だった。光ちゃんは静かに俺の言葉を聞いて、唇を結んだ。
***
「お疲れ様でした。失礼します。」
今日の撮影を終えた光ちゃんが帰っていく。
「あ、光ちゃん。」
俺が呼び止めると、光ちゃんは笑顔で立ち止まり、マネージャーは不機嫌そうに少し先で足を止めた。
「箕川さんの差し入れ貰った?」
「あ…ううん」
「だと思った。ほら、これ光ちゃんの分」
俺が饅頭を差し出すと、光ちゃんは笑顔になって受け取った。その腕のなんと細いことか…
「なんかまた痩せた?ちゃんと食べなきゃダメだよ。」
「ぜ、全然。大丈夫。」
ありがとう、と最後に言って、光ちゃんはマネージャーの方へ歩いていく。
もうファッションショーは終わったって聞いたけど…見るたび痩せてる気がする。
ほとんど毎日のように会うから、気付きにくいけど…。
…心配だなぁ。