あっという間に、春。
今は春季キャンプで九州に来ている。

あれから光とは、相変わらず時々食事に行くだけの仲…。
御幸のことがあった以前に比べると、光が明るくなっていたことは引っかかったが、そこには触れる勇気がなかった。

そして俺のオフ中がチャンスとばかりに、冬の間に何度かちょっと足を延ばすデートに誘ってみたものの、仕事が立て込んでいてしばらくは夜に食事をするくらいしかできないんだとのことで…。

あ〜せめて…
部屋に入れてくれねーかなぁ〜…。


「えー続いてのニュースです。女優の花城光さんが所属事務所を移籍することを発表しました。」

え?
意表を突かれるニュースが耳に飛び込んできて、付けっぱなしで誰も見ていなさそうなテレビを見た。画面ではニュースキャスターがまじめな顔で短い原稿を読み上げ、すぐに次のニュースに移ってしまった。
ふと見ると、御幸も食事のトレーを持ったまま通路で立ち止まり、テレビを見ていた。が、次のニュースに移るとすぐに興味を失ったように、席に歩いて行って着席した。

光が事務所を移籍?そんな話、聞いてなかったけど…。
けど、芸能界のことはよくわかんねーしな…。

ま…いっか。


***


「あ、そうなの。だから先週引っ越したの。」
「えっ」

夜光に電話をして移籍の件を聞いてみたら、あっけらかんとした声で言われた。

「そ、そうなんだ…言ってくれれば、手伝ったのに」
「そんな悪いよ。それに、事務所の人がやってくれたから大丈夫。」
「そ…そっか」

なんだろう、この、用無し感…。俺って頼りにされてねーんだなあ…。
手伝い云々はともかく、相談すら、報告すらなかったのがなあ…。

「あ…そうだ、俺来週にはキャンプ終わって帰るんだけど…どっか空いてる?」
「え?あー…」

な…なんだその間!不穏な雰囲気しかねーぞ…

「ごめん、移籍したばっかりで色々立て込んでるから…また落ち着いたら連絡するよ。」
「そ…そっか…。待ってるぜ…」
「ごめんね、じゃあ、また。」

電話が切れ、俺は立ち尽くした。
あんな…あんなキスしたのに…。
もう俺に興味なくなっちまったのか!?光〜〜〜…!!


***


「下心バレバレなのがダメなんですよぉ。」
「…あ?」

キャンプから帰り、俺は鷹野のバイト先の喫茶店に来ていた。今日は東条も金丸もいる。余談だが、金丸は無事車のマニュアル免許を取得できたらしい。
俺は暇を持て余したばかりになぜかここへ来て、素っ気なくなった光のことを鷹野に相談してしまった。

「だからぁ〜…倉持先輩のやり方って、なんか…遠慮せずに言わせてもらうとぉ…」
「なんだよ」
「…ヤリたい!ってのが、溢れ出しちゃってるんですよねぇ」
「…は!?」

女のくせに男も真っ青の下ネタをぶち込んできた鷹野に俺だけじゃなく東条と金丸も顔をひきつらせた。

「あ、ヤリたいってのはつまり性行い…」
「んなこたぁわかってんだよ!言わんでいい!」
「鷹野お前…もうちょっと言い方考えろよ」

女なんだから、と諭す金丸に、関係ないもーんと悪びれず口をとがらせる鷹野。

「つーか…どこらへんがだよ」
「え〜?全部です」
「…ぶん殴っていいか?」
「ダメです!女です倉持先輩!」

もちろん冗談だが拳を握って言うと金丸たちがお約束通り止めに入ってきて鷹野はケラケラ笑った。

「だって〜、旅行に行きたいとか家まで送りたいとか…それってつまり…あわよくばって思ってるじゃないですか〜?バレバレですよそんなの」
「ぐっ…」
「御幸先輩のことは私も驚きましたけど〜…純粋に心配からご飯作ってあげてたなんてめちゃくちゃ優しいじゃないですかぁ?めちゃくちゃ“愛”感じますよね〜!」
「……。」
「その点倉持先輩は、まだ下心が抜けきってない…“恋”なんですよぉ。どっちが悪いとかじゃないですけど〜…。…あ、下心ってホラ、恋の字の下の部分が…」
「やかましいわ」
「えー!これスゴイいい話ですよ?愛の字は真ん中に心があって、“真心”になってるんですよぉ〜!」

バカバカしい話だけど…一理あるのがウザイ。

「いくら気になってる相手でもあまりにも下心が透けてたら、女の子はちょっと引いちゃいますよね〜」

鷹野はじっくりとドリップしたコーヒーをカップに注いで俺の前に置いた。

「ま、ファイトでーす」
「…投げやりだなオイ」

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