「へー、引っ越したんだ」
「うん。」
今日は光と食事。たまには飯でも…という話の後、これが初めての食事だった。
「どの辺?」
「西区の有名な橋があるでしょ?その南東のマンション。」
「へー、いいとこじゃん」
あまり詳しい住所を聞くのははばかられて、だけど今後食事に誘うときの指標に大体の位置は知っておきたくてそれとなく尋ねてみると、思いがけず詳しく場所を教えてくれるものだから正直驚いた。
「もう引っ越し落ち着いたの?」
「うん、一応」
「まあ荷物少ないもんな〜光」
「あはは。でも最近、ちょっと増えてきちゃったけど」
「…そーなんだ。いいじゃん。」
着実に…元気を取り戻してるみたいだ。俺は安堵から微笑んで、光を見た。光も穏やかなほほえみを浮かべて、ちょっと気恥ずかしそうにうなずいた。
「一人暮らし良いなぁ〜、俺も早く寮出たい…」
「あはは。」
無邪気に笑う光の笑顔に胸が喜びで締め付けられる。
俺はもしかしたら、予定よりも早く…来年には寮を出られるかもしれない。そしたら…その時もし、光の気持ちが俺に…戻ってくれていたら。
一緒に暮らすって約束を…叶えることができたら。
なんて、勝手な妄想だけど。
だけどそのことは光には言わず、そっと胸にしまっておいた。
***
「みんなで飲んでま〜す!イエ〜」
「おい鳴、あんま騒ぐなよ!」
今日は鳴に呼び出されて懐かしい面々と飲み会。高校時代に甲子園出場の座を競い合った奴らが、今やプロ野球界で活躍している。
「この中に一人だけU18メンバーに選ばれなかった奴がいま〜す」
「……。」
インスタライブではしゃいでいる鳴の言葉に、たこわさを箸でつまんだ瞬間だった倉持の手が止まり、殺気のこもった眼で鳴を睨みつけた。
「誰でしょ〜〜〜〜か!?」
「鳴、殺されるぞ」
倉持の目つきを見たカルロスがぼそりと窘める。
「それより〜!俺今日聞きたいことあるんだよ!」
「落ち着いて食え」
「一也と倉持!」
「あ、そこの醤油とって」
「聞けよ!なぁ、光ちゃんとのことどーなってんの!?」
「……。」
「……。」
俺も倉持も固まって黙り込んだ。下手なことは言えない。なにせ鳴が自分のスマホで全世界に向けてインスタライブをしているから。
「今どっちと付き合ってんの!?」
「……。」
「……。」
反射的に倉持の顔をうかがうと、倉持も俺をちらりと睨んでいた。とっさにお互い目をそらし、気まずい沈黙が流れた。
「あ〜どっちもフラれてんだ!?」
「ビールおかわり」
「えっ、一也はさぁ、光ちゃんの家に通って何してたわけ?」
「……。」
全員の視線が俺に突き刺さった。部屋にはむさくるしいほど男が詰め込まれているというのに、不気味なほど静まり返った。
「…飯作りに行ってただけ」
「はあ!?お前家政婦!?ぎゃははは!なんでお前そんなことしてんのwww」
俺の答えを聞いた途端、鳴が盛大に馬鹿にして笑ってきた。
「いや別に…普通に、大事な友達だし。心配で。普通に。」
「え?てか付き合ってたよね?」
「……。」
「うわっ!すげぇコメント流れてる」
鳴の爆弾発言により、インスタライブ中の画面にコメントがあふれかえって滝のように流れ、もうとても目で追えない勢いになっているのが見えた。
「あれ?これ未公表だったっけ?いや実はそーなんですよ〜一也と光ちゃん高校生の時付き合ってたんすよ〜!」
「おい…」
「俺が先に光ちゃん狙ってたのに!数か月後に再会したらこいつと付き合ってましたぁ〜。最初全然興味ないみたいなこと言ってたのに、奪われましたぁ〜。」
鳴が被害者面であほみたいなことを言うのを横目に、俺は諦めのため息をついた。
もうネットで噂にはなってたけど…あ〜あ、これでまた変な注目が集まる…。
「そういやなんで別れたの?」
「言わねーよ」
見向きもせずビールを飲む俺を見て、鳴はなにかいたずらでも考えるようにフ〜ンと目を細める。
「ホントにぃ〜?元カノの家に行って何にもしてないなんて信じらんないな〜」
「だから飯食ったって」
「そーいうことじゃなくて〜!だって部屋だよ!?密室だよ!?男と女だよ!?」
「おい…俺はいいけど光の名前出してそういう話するな。」
「…!!」
鳴をたしなめようとして出した声は思いのほか低く怒りがにじんでしまい、自分でも驚いた。が、鳴はもっと驚いた様子で口をパクパクさせ、カルロスのほうへ避難していった。
「一也が怒った〜!!」
「お前が悪いだろ鳴…相変わらずボウヤだな〜」