光が見慣れない先輩と喋ってる。
それも、いつも速水先輩や矢野先輩や岡田先輩と話す時とは違う、どこか嬉しそうな笑顔で。
「ちょちょちょ、東条くん!」
通りすがりの東条くんを呼び止めて、私は光と先輩の方をこっそり示しながら聞いた。
「あの先輩誰!?」
「ああ…結城先輩だよ。野球部の、元主将の。花城と家が近所らしいよ。」
「ええー!?」
そんな人がいたとは。昔から知ってる人…ってことなのかな?
「なんかいい雰囲気に見えない〜?」
「え…あぁ、はは」
ちょっと元気なく笑う東条くんだったけど、私は光の姿を見て嬉しくなっていた。だって結城先輩は、たくましくて男らしくてルックスも申し分ない、光をしっかり守ってくれそうな、なんとなくお似合いの二人に見えたから。
「付き合ってるのかな!?」
「うー…ん…どうだろうね…」
***
「な、ないない。」
教室に戻ってきた光に結城先輩と付き合っているのか聞いたら、慌てた様子で首と手を振られた。
「え〜、でもいい雰囲気だったじゃーん」
「そんなことないって…。」
否定しながらも光の顔は赤い。私はひらめいた。光はきっと結城先輩のことが…!
「その目やめてよ。」
「え〜でもぉ〜」
にやける顔を抑えきれず、光に鬱陶しがられながら一緒にジュースを買いに行く。ロビーの冷えた空気は私の高揚した顔を少し冷ましてくれた。
「光、あきらかにほかの先輩たちに対する感じと違ったし〜」
「違わないって。」
「ぜんっぜん違うよ〜!矢野先輩とかにはツーンって感じだけど〜、結城先輩にはフワフワ〜って…」
「だからそういうこと言うのやめ…」
うんざりした様子で私を振り返った光が、はっと口をつぐんだ。
まさかと思い振り向くと、なんとも複雑な顔をした御幸先輩が、ちょうどロビーに入ってきたところだった。明らかに聞こえてたよね、今の…。
「…よお。」
「こ、こんにちは!」
気まずそうに挨拶をしてきた御幸先輩に、とっさに挨拶を返す。光は口をつぐんだまま会釈をして、お金を入れようとしていた自販機の前から一歩下がった。
「いや、何遠慮してんだよ、買えよ。」
御幸先輩が取り繕ったような笑顔で突っ込みを入れた。
光は苦笑をして、最近飽きたと言っていたアイスティーを買った。
「…あ!私は大丈夫です。」
続いて御幸先輩が私を見たから、私は両手を振って何も買わない意思を示した。ほんとはジュースでも買おうと思ってたけど…。
「あ、そう…。」
御幸先輩はそういうと、自販機に近寄るでもなく、チラチラと光を見る。…私、どっか行ったほうがいいかな?
「…あのさ」
ついに御幸先輩が口を開いたとき。カツンと音がして、ロビーにもう一人の人物が現れた。
速水先輩だ。
速水先輩はここに集まっている面々を見渡して、出遅れた、とでもいうような悔し気な微笑を浮かべた。
それを見るなり御幸先輩は、すぐに光を振り返った。
「花城、ちょっといいか?」
「え…。」
普段通りすがりにちょっかいをかけることはあっても、こうして御幸先輩から呼ばれたのは初めてだと思う。光はちょっと驚いた顔で、ちらりと私を見て、私がうなずくと少し迷うように御幸先輩を見た。
「…い、いいですけど…?」
いったい何なのだろう、と表情が困惑している。御幸先輩は光を連れて、ロビーを出て行ってしまった。
速水先輩は気まずそうな笑みを私に向ける。
「先越されちゃったな…。」
人のことなのに、そんな焦れた言葉にこっちがドキリとする。
「元気出してくださ〜い…」
「ははは。」
冗談交じりにそう言うと、速水先輩はさわやかに笑った。やっぱり申し分ないイケメンだ、この人は。
「…じゃ。」
光がいないから、もう用もないのだろう。寂しそうに言って立ち去る速水先輩の背中は、さすがの私でも切なく思った。