「哲さんから聞いたんだけど…」

校舎裏に花城を連れてきて、俺はさっそく切り出した。口ごもればそうするほど、俺の下心が見透かされそうで、淡々と抑揚のない、興味のなさそうな言い方を心掛けた。

「哲さんに告られたんだって?」

目を瞬いた花城の頬がほのかに赤く色づく。

「…いや、」
「ごまかさなくていいって、哲さんから聞いてんだから」
「……。」

唇を引き結んだ花城の顔はみるみる真っ赤になって、その愛くるしさは俺の胸をつかえさせた。

「…付き合って、とか、言われたわけじゃないですから」

でも、それに近いことは言われたはずで、花城もその気持ちは気づいてるはずで、それに、近い未来に哲さんははっきりとそれを伝えるつもりで…。
もう俺の入る隙はないのかも…。

「…よかったな、両想いじゃん」

無理やり笑みを作ると、胸に痛みが走った。

「やめてくださいよ…」

俺を恥ずかしそうににらむ花城の赤い顔を見て、その痛みはますます強くなっていく。

「速水、知ったら悲しむだろーなぁ」
「……。」
「矢野も、岡田も…」

…俺が一番堪えてるけど…。

「モテる女は大変だな〜!」
「だから、やめてってば」
「俺も今夜は枕を濡らすか〜!はっはっは」
「はあ?」

またからかわれたと思って、花城は俺を見上げて冗談ぽくにらみ、笑う。

「おいおい、哲さんの前でそんな言葉遣いするなよ?」
「御幸先輩にしかしませんよ。」
「ひっでえ〜笑」

ああ、虚しい…。
花城に聞いて、反応を確かめて、どうするつもりだったんだ俺は。花城の気持ちは、とっくに知っていたはずなのに…。


***


「悪い、今日はもう帰る」

練習を見に来てくれていた哲さんが、今日は珍しく来て30分ほどでそう言った。

「結城先輩も受験生だしなあ」
「プロにって声もあったのに大学に進むなんて、真面目だよね」

1年たちがそんな噂をしている。俺は水分補給をするためにグラウンドの端に向かった。
そこから見える校門に、哲さんが歩いていくのが見える。そこに待っていた一人の女子生徒の姿を見つけて、俺は息をのんだ。

花城が哲さんに近寄り、二人は一言二言話して、並んで歩きだした。フェンスの向こうを、少しうつむきがちに。
正面を通り過ぎ、二人の背中が見える。遠ざかっていくその背中から目を離せないでいると、哲さんがちらりと花城を見た。

そしてその無骨な手が、無防備な花城の手に触れた。

――ボトッ、と、ペットボトルが足元に落ち、ころげて土に黒い水たまりを作った。

「ちょ、おーい、御幸君どした?」
「あ、あぁ、悪い…」

ぎょっとした梅本の声で我に返る。

「…なんでもない。」

それだけ言うのがやっとで、俺はペットボトルを拾って中身をすべて捨て、その場から逃げるようにゴミ箱へ向かって歩いた。

「主将としてのプレッシャーで疲れてんでしょ…、」

ひそひそと話し合うマネージャーたちの声を背中に聞きながら、俺の胸はずっとざらついていた。

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