いつからか、どこからか。
花城の噂は、あっという間に学校中に広まっていた。

1年にとんでもなく美人で可愛い子がいると。
特に男どもが集まると、その話で持ちきりだった。

「なあ、花城さんがいるぜ」

廊下を歩く先にいる、見知らぬ生徒たちが噂している。彼らが指す方を見ると、窓の外の渡り廊下を歩いていく花城の姿があった。

「細いなー。」
「足長っ」
「モデルみたいだよな」
「こっち向かねえかなあ」
「呼んでみる?」

しかし彼らが勇気を出す前に、花城の姿は向こうの校舎の中へ消えていく。

「あーあ、行っちゃった」
「行こうぜ」

彼らも諦めたようにその場を立ち去った。俺は花城が入って行った昇降口の黒い日陰を見て、もうそこには誰もいないのに、なぜだか胸が焦がれた。

「おい、邪魔だデブ」

突然背中にキックを喰らってよろける。振り向かなくてもわかる。倉持だ。

「お前…青道の貴重な正捕手の身体を…」
「この程度でへこたれるヤワな捕手はいらねー。ヒャハハ」

倉持は楽しそうに笑って、俺が見ていた窓の外を見た。

「何見てたんだよ?」
「別に。」

「えっ、マジで!?花城さんに!?」

突然聞こえてきた噂話に、俺はつい耳が大きくなった。倉持も興味を惹かれたように、騒いでいる男子のグループを見た。

「声でけえって…。」
「ワリィ、で、どうなったんだよ」
「どうって…まあ、なんつーか…。」

話しているのは隣のクラスの奴らだ。中心で質問攻めにされているのは、テニス部の矢野。女子から人気があって、一時期先輩とも付き合っていたという噂がある。

「とりあえずメアドは渡した。」
「おお!やるう!」
「騒ぐなって…。」

…どうやら矢野が花城に気があって、連絡先を渡したらしい。
なんだか、胸にモヤモヤしたものが広がった。

ふと倉持を見ると、倉持もどこか面白くない顔をして矢野を睨んでいる。だけど俺と目が合うとはっとして、誤魔化すように睨んだ。

「あ?んだよ」
「何も言ってねーじゃん、コエー奴…」
「文句あんならはっきり言えやゴルア!」

倉持をかわして廊下を歩き出し、俺はどこか気が急いた。
そうか…花城、やっぱモテるんだな…。あんだけの美人じゃな…。

「…おい御幸!」

追いついてきた倉持が俺の肩を捕まえる。

「何?重いんだけど」
「テメーより重かねーよ!それよりどーすんだよ、矢野!」
「何が?」
「花城さん奪われちまうぞ、いいのか?」

…待て、なんで俺はぎくりとしてんだ。

「なんで俺にそれを言うわけ?」
「だってお前名前聞いたり、絡んだりしてたじゃん」
「だから?」
「ああ?気があるよーにしか見えねーつってんだよ!」
「話しかけただけで?お子ちゃまだなー倉持くんは♡」
「ああ!?ぶっ殺すぞてめえ!」

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