「またねー!」
夕方になり、カラオケ店を出た俺たちは、駅前で電車通学の鷹野を見送って、花城と男4人で学校方面に向かって歩き出した。
「花城徒歩通学なんだ?」
「うん。」
「家どの辺?」
「学校のすぐ近く。」
「へえー」
…そういや哲さんと家が近いとか言ってたか。てことは…学校の北の橋を渡った…あの辺の住宅街のあたりか。
そんなことを考えながら、俺はまた緊張感が漂うのを感じた。
男共はみんな考えてる。…誰が花城を家まで送っていくか。
このままぞろぞろと4人で送るのもなんだかな…。みんな二人っきりになりたいと考えてるはずだ。特に倉持。
だけど今一番有利なのは、同じクラスでもともと仲もよく、おそらくあまり異性として意識されていない東条。こいつが家まで送るよと言えば花城は特に深く考えず受け入れるかもしれない。
学校まではあっという間で、俺たちはすぐに寮の入り口に差し掛かった。
「それじゃ…」
花城はそう言って一人で帰ろうとした。
「いやいや、もう暗いし送るよ!」
それを引き留める東条。
「え、いいよ悪いし。家近いし。」
「気にしなくていいって、危ないからさ。」
「本当に大丈夫だってば。じゃあまたね!」
花城は軽く笑って、振り切るように踵を返し、行ってしまう。俺たちはみんな残念そうな顔を見合わせて、後ろ髪惹かれるような思いで寮に向かって歩き出した。
…と、その列から俺はこっそり抜け、校外へ踵を返した。
「…ん?あれ?ハァ!?御幸アイツ…!」
背後から倉持の声が聞こえた気がするけど、無視無視。
駆け足で花城が去ったほうに向かうと、まだそこに花城の姿があった。
「おーい」
呼びかけると、花城は振り向いて足を止める。
「え?なんで…」
「やっぱあぶねーと思ってさ。」
「……。」
花城は口をとがらせて、だけどまんざらでもなさそうに歩き出した。
「大丈夫ですよ…」
「大丈夫じゃねえの。」
花城はやけにおとなしく、うつむいて歩く。俺の脳裏にはこの間の哲さんとの光景がよみがえっていた。俺があんな風に花城の手に触れたら…どうなるだろう。振り払われる?よな、やっぱり…。
「…すみません。送ってもらっちゃって」
「お安い御用。」
「……。」
やっぱりやけにおとなしい。まあ、普段もおとなしいほうではあるけど。
「哲さんのこと」
やめておけばいいのに、花城のことを考えるとどうしても付きまとうあの人の存在。
「友達には言ってねーの?」
「何をですか?」
「友達以上恋人未満なこと」
…やばい、笑い話のように装っても、その言葉を口に出すと、かなり胸に深く突き刺さる。ついこわばる顔を隠すように、俺は空を見上げた。
「だからそう言うのじゃないって、何度も言ってるじゃないですか」
うんざりした調子の花城の声。もういいから、認めてくれよ。期待するのも辛いんだ。
「ふーん…。」
だけどそれ以上追求する度胸もなく、情けなく相槌を打って話を終わらせる俺。
「先輩は?」
「え?」
「彼女いないんですか?」
思いがけない花城の質問にどきりとした。なんの他意もないのはわかっているけど。
「いるように見える?」
「見えないです。」
「はっはっは、失礼な奴…」
「好きな人は?」
「なんで?」
「だって先輩、いつも私のことばっかりじゃないですか」
ぎくり。いやいや、私のこと、ってのはつまり、花城と哲さんの関係のことだから。
「そう?」
「そうですよ。だから先輩はどうなのかなって」
「あー…」
いねーよ、って、普通なら返すところだけど。
俺はついとっさに、花城の反応をうかがいたくなった。
「…好きな人はいる」
花城が俺を見上げ、目を瞬いた。
「えっ…ほんとに?」
「まあ」
「……。」
花城は足元を見た。こつこつこつ、しばらく二人分の足音が響く。
「ふうん」
どうでもよさそうにつぶやく花城の声。まあそうだよな…。
「……。」
「……。」
それきり静かになる花城。なんだこの気まずさは…。
「もうここまででいいです」
突然花城が立ち止まった。
「いや家の前まで行くよ」
「いいです。親に見られたくないし」
「……。」
俺は苦笑した。
「そーですか…」
「じゃあね御幸先輩。」
どこかそっけなくそう言って歩き出した花城は、最後に少しだけこっちを振り返った。
「ありがとう。」
「…おー」
またすぐに前を見て、行ってしまったけど。
その背中が曲がり角を曲がって見えなくなって、俺も学校のほうへ踵を返した。