夏休みに入った。
学校が休みな分、一日中野球の練習が入る。
期末テストで赤点をとった奴は、午前中は補習で抜けているが…そんなバカは一握りだ。
「よーし休憩ー!」
号令がかかる。俺は汗まみれのキャッチャーマスクを外し、のんびり歩きだした。
水分補給をし、汗をぬぐうためにユニフォームをはだける。ついでに顔を洗って少しさっぱりしようとタオルを持って水道を目指して歩き、グラウンドを出た。
「あ…お疲れ様です!」
「おー」
ちょうど補習が終わったらしい。校舎のほうから歩いてきた補習組の部員たちとすれ違って挨拶をしながら、俺は水道にたどり着いた。水を出し、眼鏡を外して頭から水をかぶる。気持ちいい。
今日は特に猛暑で、キャッチャーマスクをかぶるのもキツかった。
少し頭が冷えて、水を止めてタオルを手に取る。
ざり、と足音がして、俺は振り返った。
「あ…御幸先輩?」
え。この声は。
俺は慌ててメガネを取り、また振り返った。
「花城…」
「眼鏡してないの初めて見ました。」
ふふ、とほほ笑む花城。心臓に悪い。
「花城のエッチー」
「何言ってんですか。」
「なんで学校いんの?」
「補講です。」
「へえ、意外〜真面目そうなのに…」
「え?」
「テストの点悪かったのか〜?」
にやにやからかうと、花城は眉根を寄せた。
「成績上位者の夏期講習ですけど」
「あ…そう」
なんだ。つーか、予想以上に優等生だったのか、花城って。
「夏期講習ってどんくらいあんの?」
「平日はほぼ毎日です、午前だけ」
「うげー、ご愁傷様…」
…つーことは、平日はほぼ毎日学校来るんだ、花城。じゃあ結構会えるかも…なんて。
「哲さんとも会えないな〜。なーんて…」
「そもそも結城先輩は受験生だから忙しいんです。」
その話しないでよ、と、花城はそっぽを向いた。
「まー、そーだけど」
「練習戻らなくていいんですか?」
「今休憩中。」
「私は帰りますけど」
「まあまあ、ちょっと付き合えよ!」
「えー…」
花城はうっとうしそうにしながらも、俺がベンチに座って隣をたたくとそこに座った。
「夏休みどっか行かねえの?」
「家族で海外旅行行きますよ。」
「へ、へえー、リッチだなあ」
「別に普通ですよ」
「ああそう…でドコ行くの?」
「フランスです」
「…花城ってもしかしてお嬢様?」
「全然。」
何気ない質問になかなか濃い回答が来て面食らった。花城はこう言ってるけど、花城んちって実は結構良い家?確かに花城は清楚でお嬢様っぽい雰囲気だけど…。
「先輩、もう一回眼鏡外してくれませんか」
「嫌だよ」
「なんで?」
「そっちがなんでだよ」
「見たいから。」
「俺は見られたくない。」
「なんでですか?」
「恥ずかしい。」
「はあー?」
花城がけらけら笑い、俺のタオルを奪い取る。
「あ、こら、返せ」
「あははは。」
こんないたずらさえ、花城だと嬉しくなってしまう。俺、今、すんげえニヤけてんじゃないだろうか。
でももうそんなことどうでもよくなるくらい、花城との時間は楽しくて幸せで。時間が経つのが惜しくなる。休憩が終わってほしくない。このまま時が止まってほしい。そんなことを考えながら花城とのひと時を楽しんでいる俺の視界に映る垣根の陰から、不意に倉持が現れた。
「……。」
俺は倉持の怨念のこもった眼光に突き刺された。
「み〜〜〜ゆ〜〜〜き〜〜〜〜〜」
「げっ、不良が来た」
「誰が不良だこのデブ!!サボって女子といちゃついてんじゃねーぞコラァ!!!」
「えーイチャついてるようにみえた?笑」
「ちょっとやめてくださいよ。」
「俺じゃなくて倉持が〜」
「さっさと練習に戻れクソキャプテン!!!」
倉持の怒号でほかの部員たちも集まってきた。
「休憩中じゃん」
「うるせー花城さんにベタベタすんな!!」
「そーだそーだ!!」
「主将のくせに彼女作る暇なんてあると思うなー!!」
「なんで皆倉持の味方してんの?」
あきれて頭をかいた俺の背後で花城がベンチから立ちあがった。
「なんか御幸先輩とそういう風にみられるの嫌なんで帰りますね。」
「お前も辛辣だな?」