「お疲れ様で〜す」
背後のフェンスから声がかかり、振り返る。そこには鷹野と、一歩下がったところに花城がいた。
「おー、今日は鷹野も一緒?」
「私は部活でーす」
「へー、何部?」
「剣道部でーす」
「へえ…」
鷹野は今日も元気いっぱいだ。
「今日これから光とプール行くんですよ〜」
「そーなんだ」
「羨ましいですかあ〜?」
「はっはっは、羨ましいなあ〜!俺も花城の水着姿…」
「キモッ…」
ふざけて調子に乗ったら花城に引かれた。
「冗談だって。」
「セクハラですよ。」
「ごめんって。」
俺と花城のやり取りをニヤニヤ眺める鷹野。…と思ったら、突然手を伸ばして、花城のスカートの裾をまくった。
「えい!」
「きゃ…!?」
翻ったスカートを反射的に見てしまう。あらわになる真っ白な太もも、そして…そこを覆う白い布地…。
「…ちょっと司!怒るよ!?」
「きゃはは、ごめーん」
「……。」
俺は何も言えず、今見た光景を脳裏で反芻しては振り払い、花城ににらまれていることに気づいて、必死に平静を取り戻した。
「…言っとくけど、これ水着なので!」
「え?」
花城から思いがけない注意を受けた。鷹野を見ると、うんうんと頷かれる。
「さすがにパンツのときはやらないですって〜!」
「そうじゃなくてもしないでよ。」
「はっはっは…」
居たたまれない…。
「あ、そーだそーだ、そんなことより!」
ぱん、と手を打って、鷹野が話を切り替える。
「今夜肝試しやるんですけど御幸先輩も来ませんかー?」
「肝試し?」
「学校の近くの公園で!」
近くの公園…といえば、半ば森のようになっている散歩コースがある。確かにあそこは薄暗いし、夜はそれなりの雰囲気が出るだろう。鷹野が誘ってくるということは花城もいるんだろうし…行きたい…けど…
「肝試しか〜…」
「怖いの苦手ですかぁ?」
「いや別に…」
「ちなみに速水先輩も来ま〜す」
「は?」
反射的に顔がこわばった。にやー、とした鷹野の顔を見てしまったと思う。
「速水先輩が誘ってきたので〜」
「え?」
俺はつい花城を見た。
「…行くの?」
「司がどうしても行きたいって」
好きな子が他の男と夜に肝試しなんて、どんな男でもいい気持ちはしないはず。花城も哲さんのことが好きなら誤解を招くような行動は慎むだろうに不思議に思って聞くと、花城は鷹野に視線を移した。
「夏といえば肝試しじゃないですか〜!!」
「……。」
楽しければなんでもいいんだ、こいつ。
「で…なんで俺?」
「え?速水先輩と仲良いから〜」
「よくねーよ別に」
「えー!よく一緒にいるじゃないですか!」
それは俺も速水も花城を目当てにしていて出くわしているだけ…。
「で…お前らと速水?だけ?」
「そうですよ〜」
「……。」
それはなんかいやだ。もしまた鷹野がすっぽかして、夜中に花城と速水二人きりにさせることになるし…。
「あー…じゃ行くよ」
「ほんとですかあ!?」
「夕飯食ってから行くから…8時以降になるけど」
「大丈夫でーす、早すぎるとまだ明るいし。じゃ、8時すぎに公園の前で!」
「ああ…」
うなずくと、鷹野と花城は挨拶を残して行ってしまった。
肝試し…か。自主練のフリでもして抜け出すか…。
***
日が暮れてきたころ。さも自主練に出るふりをして校門を出る。
学校外の土手にはちらほら素振りをする部員がいて、ここを通り抜けても特に怪しまれない。
特に俺は一人で自主練をすることが多いし。
公園はすぐに見えてきて、そこに立っている人影も見えた。
そわそわ落ち着かない様子で、一人で立っている速水…。
「……。」
「……。」
はたと目が合う。軽く片手をあげて近づくと、速水は悟った顔になった。
「えっと…もしかして…」
「花城に誘われて来た。」
「あー…そうなんだ」
あからさまにがっかりする速水。面白い。まあ、本当は鷹野から誘われたんだけど。
男二人で気まずい空気の中沈黙が流れる。
「…なあ、御幸って…」
その沈黙に耐えかねたように、速水が何か言いかけた時。
「おまたせしました〜」
元気よく登場する鷹野に毒気を抜かれた。隣には花城もいる。2人とも昼間会った時と同じ、制服姿だ。今日この時間までずっと遊んでたんだろうか。
「じゃ…行こうか」
気を取り直したように先導する速水。
楽しそうに続く鷹野、大人しく歩き出す花城。俺は最後尾に続いた。