『ジュテーム ジュテーム
退屈な恋なんてしたくないわ
あっという間に溺れてく 今がすべて…』
「…それ花城さんが歌ってたヤツだよな」
突然信二の声が聞こえてぎくりとする。俺は慌ててヘッドホンを取り、曲を止めた。
「えっ、あ、音漏れしてた?ごめん!」
「まー少し…平気だけど」
今は自由時間ということもあり、みんな各々グラウンドで投球練習をしたりジョギングをしたり、素振り練習をしたり…とにかく自主練中だ。
俺はこそっと、今日何度目になるかわからないけれど、校舎の2階の窓を見た。あそこは教室。花城、今日も夏期講習かな…
「花城さんといえばさ」
また信二が花城の名前を口にして、俺はぎくりとした。
「こないだの夜、御幸先輩と一緒にいたらしいって…あれマジなのかね」
「え、あ、あー…」
それは俺も思い悩んでいた噂だった。数日前の夜、外で自主練をしていた部員たちが一斉に寮に駆け込んできたと思ったら、「いまそこを花城さんと御幸先輩が一緒に歩いて行った」と言うので大騒ぎになった。時間も時間だし、夏休み真っただ中の今の時期、わざわざ待ち合わせをして会っていた…つまりデートとしか考えられなくて。
御幸先輩は偶然だと言い張っていたらしいけど…。
「まー御幸先輩…いつもあそこにいるもんな」
「え?」
「ほら、今も」
信二が視線をやった先には、グラウンドの隅で素振りをする御幸先輩が見えた。あそこは補習に来た生徒が帰る時に通るフェンスの近く。つまり、夏期講習を終えた花城が帰るときに必ず通過する道が見える場所。実際夏休みに入ってから、何度もあのフェンス越しに、講習帰りらしき花城と御幸先輩が話し込んでいるのを見た。
「あれ絶対花城さん目当てだよな」
「あー…」
それは俺もずっと思っていたことだった。でももしそれが、花城の意思もあることだったとしたら…。
御幸先輩と会いたいがために、花城もそこを通っているのだとしたら、なんて…考えるのが辛くて、考えるのをやめたのだった。
「あ…」
そのとき、その御幸先輩のそばを、一人の女子生徒が通りかかった。通り過ぎようとしたその女子生徒は御幸先輩を見つけて立ち止まり、フェンスに近寄ってくる。
「あれ…鷹野か?」
信二の声を聞きながら、俺は拍子抜けした。確かにあそこにいるのは鷹野。花城と一緒じゃないのは珍しい。
俺と信二は顔を見合わせ、二人のほうへ近づいた。
「光、昨日から家族で旅行に行ってるんですよー」
近づいたところで、鷹野のよく通る声が聞こえた。
「あっ、東条君に金丸君も、おつかれ〜」
鷹野はすぐに俺たちにも気づき、明るく手を振ってくれる。
俺たちが振り返すのを、御幸先輩は振り返って一瞥した。今花城の話してたんだよな…?てことはやっぱり、御幸先輩って…。
「鷹野、なんで学校にいるの?」
「私ってそんな暇そうに見える!?もー!部活だよ!」
「あ、そうなんだ…あはは」
そういえば鷹野は剣道部所属。運動部だから休み期間中もしっかり練習があるのだろう。
「光が旅行中だから今日は一人で帰るの〜光と遊べないし寂しい〜」
「ははは…鷹野は花城と仲いいもんなあ」
そんなたわいもない会話を、鷹野がぶった切った。
「御幸先輩も光がいなくて寂しいでしょお〜?」
「…え!?」
コツコツ、バットを足元で小突いて遊んでいた御幸先輩が固まった。
「あ、いやそーだな、寂しいな〜。なんちゃって、はっはっは…」
「……。」
「……。」
この人わかりやすっ…!!
思わず信二と顔を見合わせたが、御幸先輩の視線を受けてぎくりとし、慌てて視線を逸らす。
「まあ来週には帰ってきますから〜!」
「はっはっは…」
「御幸先輩が寂しがってるよって光にメールしときますね〜!」
「おいバカやめろ!」
「……。」
「……。」