フェンスに寄りかかって向こうの歩道をぼーっと眺める。
そして校門の角を曲がって表れた人物を見つけて、俺は自然と頬がほころぶ。
「よっ。」
声をかけると花城は俺を見て、少し恥ずかしげな笑顔を浮かべた。
「またさぼってるんですか?」
「ちげーよこれから練習試合。」
「へえー」
あまり興味がなさそうに言って、花城はスクールバッグのファスナーを開ける。
「そうだこれ。お土産です」
「え?お土産?」
花城はそう言いながら飴が入った袋を取り出し、フェンスの隙間から差し入れた。
そのパッケージは可愛らしいトリコロールカラーのデザインで、フランス語で商品名が書かれている。
「そういやフランス行ったんだっけ?わざわざ土産くれんの?ありがとな」
「東条たちと食べてください。」
「あぁこれ俺にじゃないんだ…」
乾いた笑いを浮かべると、花城は可笑しそうに笑う。もうこの笑顔だけで嬉しくなる。いや、旅行から帰ってきただけで、今日会えただけで嬉しい。俺、重症だ。
「ま…ありがとな」
甘いもんは好きじゃない。けど、これは独り占めしてしまいたい。
「じゃあ夏期講習始まるので」
「おー、頑張れよ」
手を振って歩いていく花城に手を振り返す。なんかどんどん仲良くなれてる気がする。これが今の俺の息抜きで、幸せなひと時…
「よぉ御幸、ずいぶん幸せそうじゃねーか…」
「!!!」
いつの間にか背後に立っていた倉持が、俺の耳元でささやいた。
「…なに、いたの?」
「いたのじゃねーよ。毎日毎日花城さんの出待ちしやがって」
「いや別にそんなこと…」
「嘘つけ!バレバレなんだよこのストーカーが!」
ス…ストーカー…
いやでも、花城は嫌がってないし…。…ないよな?お土産くれたくらいだし…俺にじゃないけど。
「で、なんだよその飴」
「これ?…ただの飴だけど」
「ただの飴だけど、じゃねーよ!今花城さんから貰ったとこ見てたぞ!!」
「はいはい」
「あっ、コラ逃げんな!」
***
「ジュース買ってこーぜ」
「何時からだっけ?」
夕食後、何やら周りが騒がしい。部員たちがみんなこぞって楽しそうに、寮の外へ出ていく。
食器を配膳台に下げながらその様子を見て目を瞬くと、亮さんが俺を見て立ち止まった。
「今日花火大会だよ」
「あ、そうなんすか」
亮さんが教えてくれた情報で周りの騒がしい様子に納得すると、亮さんも踵を返して外に足を向けた。
「友達いないから知らないのか…」
「聞こえてますよ」
だけど…そうか、花火大会か。俺も少し見に行こうかな。
去年も学校前の土手に出て、皆で花火を見たっけ。今年ももうそんな時期か…早いな。
外に出る途中で倉持も合流し、俺たちは土手にやってきた。周りには部員たちと、近隣の人たちもちらほら出てきて、まだなんの変哲もない夜空を見上げて今か今かと待ち構えている。
「野郎臭い中で花火かよ…」
倉持がぼやく。俺は苦笑をしながら、片隅で花城に思いを馳せる。
花城と花火…見に行きたかったな。なんて。柄じゃねえや。
「よう。皆花火か」
と、背後から声がかかった。聞き慣れた、顔を見なくてもわかる声。
「あ、哲さん…」
振り向いて、息を呑んだ。
哲さんの隣に立つ、スラリとした綺麗な女の子。
花城。…哲さんと花火、見にきたのか…。
淡いピンク色の、ノースリーブのサマーニットに、白いミニスカート姿。すごく可愛い。可愛すぎる。だけど、目のやりどころに困る。
花城は俺を見上げ、ちょっと口元に笑みを浮かべた。
「…おー花城も」
口元を無理やり引っ張って笑顔を作った。うまく笑えていないかもしれないけど。
「……。」
倉持の目が動揺してふたりを見て、俺に必死に訴えている。…どういうことなんだ、と。
「花城、そこのベンチ空いてるぞ。」
「あ、はい」
哲さんが言って、花城が笑顔で応じる。二人は直ぐそばのベンチに並んで腰掛けた。周りの部員たちが色めきだって二人を見ている。
「おい!なんで哲さんと花城さんが一緒に!?」
倉持は小さな声で俺に詰め寄った。
「まーそういうことなんじゃねえの?」
「そういうことって…なんでお前はそんな冷静なんだよ!?」
「別に大したことじゃねえだろ」
我ながらよく他人事を演じられたと思う。今にも胸の痛みで顔を顰めそうになるのに。
ドオン!!
と、その時、大きな破裂音が響いて、あたりが一瞬明るく照らされた。
パラパラと散る火薬が弾ける音。俺が空を見上げると、もうひとつ、今度は赤い花火が打ち上がった。
「おおー!すげえ!」
「たまやー!!」
あたりは一気に盛り上がり、皆空を見上げていた。
だけど俺の目には、花火なんて映ってくれなくて。
こっそり盗み見た花城は…花火を見上げる花城は、胸が苦しくなるくらい綺麗で。
大きな瞳に光が映って、キラキラ輝いていて、いろんな色の光に染まる花城の姿は、まるで魔法に包まれた妖精のようで。
なんで哲さんの隣なんだ。
そんな気持ちをぶつけるように花城を見ていたら、ふと、花城が顔を傾けて、俺を見た。
目と目が合った。俺は、咄嗟に逸らしてしまった。
だって、花火をそっちのけでぬすみ見ているなんて、好きなのバレバレじゃねえか。
花火の音よりも、自分の心臓の音がうるさくて、身体中に響いて息が苦しくて、俺はそっと、唇を噛んだ。