「もう付き合ってんだろ」

朝食の時間、3年のテーブルから聞こえる話題にぎくりとし、思わず耳を澄ます。

「哲は付き合ってないって言ってたけど」
「昨日一緒に花火見に来てたの見たろ…あれは確定だって」

思った通り、花城と哲さんの件か…昨日の花火大会で、あの二人が一緒にいるのを見たやつは多い。そのせいで昨日の夜から部内はこの噂で持ち切りだ。

「花城さんめっちゃ可愛かったな」
「私服やばかった!ミニスカ!」
「脚長くてさあ」
「スタイルもいいよな」

…そしてこんな邪な話題も。

「いいなあ〜結城先輩…」
「あんな可愛い彼女、男の夢だよなあ〜」
「あんな子を好き勝手出来るなんて…」
「お前何考えてんだよw」

……。

にわかにイラついて視線を逸らすと、前に座っていた倉持が面白そうに俺の顔を観察していることに気づき、一瞬狼狽えた。

「…何」
「いや〜、百面相ってこのことかと…」
「うるせえな」

昨日から倉持にからかわれているようで気分が悪い。

「今日は薬師と練習試合だぞ!しっかりしろよキャプテン」
「お前そんな熱いタイプだっけ?」



***



「よっ!久しぶり」

倉持とグラウンドに向かう途中、ポンと肩をたたかれて振り向くと、そこには真田。後ろには薬師の選手たちが勢ぞろいしている。俺たちは並んで歩きだした。

「今日はよろしくな。」
「ああ」
「お前キャプテンだって?」
「まあな」
「つーかグラウンド広っ!あれ何?」
「室内練習場。」
「室内練習場!?そんなのあんの!?うわ〜やっぱ違うねー私立は…」

言いかけた真田が、はっと固まって立ち止まる。
どうしたのかと尋ねる前に、俺もグラウンドのそばに立つその人物に目が留まった。

花城だ。清楚な白いショートパンツに黒いキャミソール、その上には透けた素材のオーバーサイズのシャツを羽織っている。緩めのシャツが風になびくたび、華奢な肩口や細い腰が見え隠れして際立つ。ひときわ目を惹く爽やかな可憐さ。何かに気が付いたように、不意にこっちを向いて、俺はそのつぶらな瞳と視線がぶつかった。

ドキッとしたのもつかの間、隣の倉持がもの言いたげにニヤニヤして、俺をしつこく小突いてきた。

「いてえよ、おい…」
「ヒャハハハ」

その様子を見て真田が目を瞬き、俺と花城を交互に見る。

「えっ…もしかしてお前の彼女?」
「…ちがう」

思わず顔が引きつる。こんなことで動揺すんな、俺。

「御幸先輩、倉持先輩、こんにちは〜。」

と、花城の隣にいた鷹野が、いつものように明るく挨拶をしてきた。
よお、と軽く挨拶を返しながら、倉持がちゃっかり二人に近づいていく。

「今日日曜日だぜ、なんで学校いんの?」
「遊びに行くところだったんですけど、これから面白い試合があるから見ていけって、そこのOBのおじさんに言われて〜。」

倉持と鷹野はかなり打ち解けている様子でそんな会話を交わす。

「えっ、あの、青道生!?」
「うおっ」

と、突然真田が倉持を押しのけて花城の顔を覗き込んだ。

「え?はい…」

若干引き気味にうなずく花城。だがそんな表情も真田の胸をくすぐったらしい。

「えーと…1年生?」
「はい」
「名前は?」
「え…?」
「あ!俺、薬師の2年の、真田俊平っす。以後お見知りおきを…」

「おい俊平何ナンパしてんだ!」
「抜け駆けすんなコラァ!」
「俺も!俺もお見知りおきを〜〜」
「うわっ!ほんとにめっちゃ可愛い」
「芸能人!?」
「誰かの彼女じゃねーの…」
「彼氏いますかぁ!?」

さっきまで後ろの外野だった薬師生たちも、真田を皮切りに花城に押し寄せた。

「きゃー!ちょ、ちょっと倉持先輩なんとかしてくださいよ〜!」
「ア!?俺!?」

鷹野にどつかれた倉持が、狼狽えつつも薬師生と花城の間に割り込むのを見て、俺はとっさに体が動いた。

「花城!」

自分の被っていたキャップを脱ぎ、花城の頭に被せる。それは小さな頭を軽くすっぽりと覆い、つばの影から大きな瞳が俺を見上げた。

「それ被ってベンチ座っとけ。」
「え?」
「早く行けって。鷹野も」

花城は目を瞬き、俯いた。その白い頬が少し赤くなったように見えた瞬間、後ろを向いてしまったけど。
二人がベンチのほうに避難すると、野球部のキャップをかぶった花城は、俺が言うのもなんだが彼氏の応援に来ているようにしか見えず、そのおかげで薬師の奴らも落胆した様子で熱気を冷ましていった。

ただ一人、真田を除いては。

「花城さんっていうんだ?」
「……。」

しまった…。
真田は嬉しそうな、そして挑戦的な顔でベンチに座る花城のほうを見た。

「あんな美女がいるなんて聞いてねーぞ」
「すげえこと言うねお前」
「何言ってんだ、あんな美人そうそういねーぞ!」
「……。」

そりゃそうだけど…。

「決めた。俺、花城さん狙うから」
「…ああそう」
「あ、お前の彼女じゃないんだし関係ないか。」
「……。」

真田を睨んだのは無意識だったが、真田の挑戦的な視線を受けて、俺は眉間に力を込めた。

「いいねその目、激アツじゃん」
「ハァ?…勝手に熱くなってるけどお前、他校でチャンスあると思ってんの?」
「恋愛は障害があるほうが燃えるだろ」
「勝手に燃えてろ」


「おい…あそこすでに火花散ってね?」

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