「あれは今日中に仕上げてー…あと絵の具足りないから買いに行かないと!」
「他に足りないものないかみんなに聞いてみるよ」
この頃のクラスはみんな忙しそうだ。もうすぐ文化祭で、それに向けて準備しているからだ。
俺は野球部の練習があってほとんど手伝えていないから心苦しい。
「悪いな俺、何も手伝えてなくて…」
真剣に話し合っていた鷹野と花城にそう声をかけると、2人は目を瞬いて俺を見た。
「何言ってんのー!野球部は忙しいんだから気にしないで!」
鷹野がそう言って軽い調子で俺の方を叩いた。花城も微笑んで頷く。
「当日は頑張ってもらうけどねー!」
「あはは。うん、頑張るよ。あと…練習終わった後まだみんな残ってたら手伝いにくるよ。」
「ええー無理しなくていいよお」
たまに、練習が終わった後に校舎を見ると、まだ教室の電気がついている時がある。今日からは少しでも手伝おう、と俺は決めた。
「まあ残ってくれる男子少ないから来てくれたら助かるけどさあ…」
「なるべく来るよ!」
***
練習後。軽く汗を拭いて着替えてから外に出ると、教室の電気がまだついているのが見えた。
「俺ちょっとクラスの手伝い行ってくるよ」
「え?あ…おう」
真面目だなー、と言う信二に見送られ、俺は足を早める。花城、まだいるかな。なんて。
全然真面目じゃない。下心だらけだ。
「おつかれ…、」
教室の前に着き、ドアを開けて中に声をかける。教室では数人の女子がダンボールを切り貼りする作業をしていて、その中に花城の姿を見つけて俺は一気に嬉しくなった。
「あー東条君!私服だ〜」
もちろん鷹野も残っていて、俺を見るなり笑顔で揶揄ってきた。
「練習終わったからちょっと手伝いに来たよ」
「ありがとう!ちょうど良かった〜買い出し行くんだけど荷物持ってくれない!?」
「いいよ!」
「じゃ、買い物リストとお金と…光〜行ける!?」
ドキッ。
花城も一緒に行くのか?
「うん。ちょっと待って、着替える」
花城はそう言って立ち上がり、作業のためにジャージのズボンを履いていた上からスカートを履いた。
…え?
俺が固まっている間に、花城はスカートの下に手を入れ、スルリとジャージを脱ぐ。
もちろん、スカートの中…なんて、見えてないけど…。そう躊躇いなく目の前で着替えられると…!!
「も〜光、一応男子いるんだけど〜」
鷹野が俺を指して笑うと、花城は気にしてない様子で笑って流した。
「ごめんごめん。」
済ました顔でそう言って、こっちに歩いてくる花城。
「じゃ、行こっか〜。近くの文房具屋…東条君知ってる?」
「ああ、交差点の所の?知ってるよ。」
鷹野が他の女子たちに行ってくるね〜と声をかけ、俺たちは3人で学校を出た。
目当ての店までは徒歩数分で、閉店時間前に滑り込むことができた。店内にはお客さんはほとんどいなくて、白色蛍光灯の薄暗い灯りが今は眩しく見えた。
「画用紙はこれと…ビニールテープも二つ買っとこう」
「メニュー表に使うのこれでいいかな?」
「うん、いいと思う!あとは…木工用ボンド〜」
「あ、俺とってくるよ!何個?」
手分けをして何とか買い物を済ませ、俺は両手に、鷹野と花城は一つずつ買い物袋を提げ、また学校へ向かう。
「ありがとう東条君!助かっちゃった」
「いやいや、何もできてないからこれくらい…」
「いやー他の男子なんて暇なのに全然手伝ってくれないもん!東条君優しいよ〜!ね、光!」
鷹野が花城に振ると、花城が俺を見つめた。
「うん。」
その笑顔が、俺にとっては何にも変え難い…喜びだ。
「…東条君カッコいいよねぇ!光!」
「え?うん」
「東条君のこと好きだよねー光!」
「…うん、…なに?」
「た、鷹野、やめろって…」
俺の様子を見た鷹野が面白がって、花城を利用して揶揄ってきた。勘弁してほしい。
教室に戻ると今日はもう遅いと言うことで解散になった。みんなで教室の机を元通りに並べ、教室の施錠をしてみんなで昇降口へ向かう。
「私たち鍵返してくるね〜」
「みんな先帰ってて。」
仲のいい女子二人組が率先してそう言って、職員室へ向かっていった。
「じゃ、私たち駅なんで!東条君、光のこと送ってってあげてね〜!」
「…え!?」
それから鷹野に言われた言葉に、俺は急に緊張した。
「あ…う、うん!」
…こころなしか、鷹野と他の女子がニヤニヤしている…。
「ばいばーい!」
「また明日〜」
鷹野たち女子がキャイキャイ盛り上がりながら昇降口を出て行き、俺は花城と2人取り残された。
「あの…気にしなくていいからね?私1人で帰れるし」
花城はそう言って苦笑し、靴を履き替えた。
「いやいや!送るよ」
そう返して、俺も靴を履き替える。
「でも東条、寮でしょ?」
「まだ時間平気だし!もう暗いしさ。花城1人じゃ危ないだろ。…女子なんだから」
「……。」
花城はちょっと目を伏せ、はにかんで、また俺を見上げた。
「じゃあ…ありがとう。」
「ぜ、全然!」
なんという破壊力。なんという愛らしさ。
最近席が離れて話すことも減ってたから、久々のこの笑顔は刺激が強すぎる…!
「私服だと雰囲気違うね。」
校門を出て歩道を歩きながら、花城が俺の方を見て笑う。
「え…なんか変?」
普通のTシャツにハーフパンツ…よく自主練や、寝る時もこんなカッコだけど。俺だけじゃなく、野球部皆。
「ううん。」
花城はまだ緩む口元で言って、俺の目を見上げた。
「なんか、可愛い。」
「か…、…え!?」
か…可愛い!?
予想を遥かに超えた単語が花城の口から飛び出した。全く理解できない。俺が可愛い?この、世界一可愛い女の子から見た俺が?
「あはは。ごめん。」
そう言って笑う花城はキラキラしていて…こんな夜道でも輝いて見える。
「…でも…よかった」
気づけば俺は、そんなふうに呟いていた。
「何が?」
花城が目を瞬いて俺を見る。花城と並んで歩いて、花城と話して笑って…、今この時が幸せで。俺は勇気を出して、気持ちを絞り出した。
「…いや、あのさ…花城と、席が離れて…最近あんま話さなくなったから」
「……。」
「今日こうやって話せて、良かったなって…」
……。
…俺、今すごく恥ずかしいこと言った?
「…そんなふうに思ってたの?」
花城の顔が見れない。俺が好きなの、バレたんじゃないかって…。
「私は…東条のこと、クラスで唯一仲の良い男子って思ってるんだけど」
「…え?」
「違うの?」
つい花城の方を見ると、花城は揶揄うように笑ってて。俺もつい釣られて顔が綻んだ。
「いや!俺っ…、嬉しい」
「……。」
そしてつい、思ったことを慌ててそのまま呟いてしまって、花城の顔が一瞬こわばったことに気づき、俺は赤面した。
…さっきのはまだギリギリ、友達としての体裁を保ってるかもだけど…
今の挙動はもう、気持ちがバレてもおかしくない…
「…そっか」
…また花城の顔が見れない…!!
「…あ、もうここまででいいよ」
花城が急に立ち止まった。
「もう家、すぐそこだから」
そう言って曲がり角の先の方を指差す。
「あ…、そっか」
「うん、じゃあ、ありがとう」
「き、気をつけて」
うん、と花城は頷き、角を曲がっていった。
そのときどんな顔をしていたか、俺は見ることもできなくて。
明日…どんな顔して会ったらいいんだ…。