「じゃーん!」
文化祭当日。
浴衣姿に着替えた、接客担当の女子たちが教室に入ってきて、何だか一気に華やかになる。
そして…。
「花城さん、めちゃくちゃ綺麗〜!」
「お客さん殺到しちゃうね、これは」
花城…。
真っ白な肌を際立たせる、コスモス柄の淡いピンクの浴衣。同じ色に色づいた頬と唇が愛らしく、滑らかなうなじが色っぽい…。
「男子〜!光に見惚れてんじゃないよ!」
鷹野の一声で数人の男子がぎくりと固まった。俺もその一人だ。
苦笑して、だけども堪えきれずまた花城を盗み見ようとすると、花城が不意に振り返って俺を見た。
どきりと心臓が跳ねる。花城は笑顔で俺に駆け寄ってくる。
「東条、最初一緒に受付だよね?行こ!」
「あ…うん!」
前に、文化祭準備の後花城を家の近くまで送った時…どんなふうに思われたか、気まずくならないか不安だったけど、次の日も花城はいつもと変わらず親しく接してくれて安堵した。
そして今日の文化祭1日目は、客引きも兼ねて花城が廊下の受付で呼び込みをする。そこで鷹野が万一に備えて男子も一緒にと、俺を同じ当番にした。大変な役割でごめんねと言われたが、正直役得だ。クラスの他の男子からも、羨ましいと裏でこっそり言われた。
花城と廊下で受付の準備をしていると、校内放送が鳴り響き、文化祭開催を知らせた。
「いよいよだな。」
「ドキドキするね。」
そう言って頬を染める花城が可愛すぎて、顔が緩む。やばい、やばい。ちゃんとしなきゃ…
少しすると廊下には人が溢れた。保護者や近隣の人、そして他校の生徒たちも。皆花城を見て、二度見したり固まったり、目の色を変えて立ち止まる。
「良かったら寄って行ってください」
「は、はい、じゃあ…」
目の前に立ち止まってヒソヒソ耳打ちしていた他校の男子グループに花城が声をかけると、そいつらは顔を赤らめしどろもどろになって、まんまと教室に招かれて行った。
「もう席いっぱいだね。呼び込みは少し休もうか」
「そうだな。」
皆ゆっくり喋っているから、回転率はあまり良くない。でもそれでいいのだ、文化祭は儲けよりも楽しいことが目的だから。
「すいませーん、入れますか?」
と、休もうとした矢先に他校の男子グループがまた寄ってきた。
「すみません、今席がいっぱいで…良かったら中でお待ちください。」
文化祭の決まりで、安全面を考慮して廊下に席を置いたりする事は禁止されている。花城が丁寧に断って教室入り口の椅子を指し、俺もその隣ですみませんと頭を下げたが、男たちはそれを無視して花城に近づいた。
「じゃあここで待ちます!キレーなお姉さん、名前教えてください!」
「ぎゃははコイツ言ったわ」
「アホだ」
文化祭で気が大きくなっているらしい。男たちははしゃいで花城に絡み始めた。ここは俺が…!
「すみません!ここ通路で危ないので…中に入ってもらえますか?」
花城を庇うように前に出て男と花城の間に立つと、男は面食らったようにちょっと固まって、へらり、と口角を上げ、俺を挑戦的に見上げた。
「…は〜い、スイマセン」
ゾロゾロと、教室に入る男たち。ちょっと柄の悪い人たちだったから、呆気なく諦めてくれてホッとした。
「…ありがとう」
こそっと、花城が俺に耳打ちしてきた。いやいや、全然、と平静を装って、俺は有頂天になりそうなのを必死に押さえつけた。
***
「お〜、やってんな〜」
文化祭が始まって小一時間が経った頃、御幸先輩と倉持先輩がやって来た。
二人とも花城に視線が釘付け…。
「…へえ、いいじゃん」
「な、なに?」
御幸先輩がそう呟くと、花城の顔が赤くなった。
「馬子にも衣装…いてっ」
「失礼だろーが」
だけどすぐにそんなふうにふざけた御幸先輩を、倉持先輩がどついた。
「褒めてないですよねそれ。」
「はっはっはっは!」
花城さんに睨まれてなお、嬉しそうに笑う御幸先輩。この人結構不器用だよな…。
「何しに来たんですか?」
「何って…野次馬に決まってんじゃん♡」
「最低ですね」
「本当コイツ腹黒のクソ野郎で!迷惑かけてすんません!俺がシメとくんで!」
花城と御幸先輩の一見喧嘩腰の…だけどすごく仲の良い応酬に、何とか少しでも花城さんにアプローチしたい倉持先輩の必死の食らいつき…。
なんだか、コントみたいだ。
「入らないなら帰ってくださいよ」
「それが客に対する態度か〜?」
「客なんですか?」
「ど〜しよっかな〜?入ってやってもいいけど〜。な?倉持…」
「誰がテメーなんかと茶ァするか」
「酷くね?」
ふふふ、と花城が鈴の音のような笑い声をこぼす。なんて綺麗で、なんて愛らしい。花城の隣に立っていられるだけで、俺は…
「…お、おつかれ」
突如ぎこちない挨拶で、何者かが現れた。
一斉に振り向くと、そこにいたのは速水先輩。
「…御幸たちも。」
固まっている御幸先輩と倉持先輩に緊張した顔で短く挨拶すると、後ろの友達にほら行けよ、と囃され背中を押されて一歩進み出て来た。
「…すごい…綺麗、だね。似合ってる…」
「…あ、ありがとうございます…」
真っ赤な顔で爽やかなイケメンが言うものだから、花城も息を呑んで顔を赤くした。
さっきからかったばかりの御幸先輩が、まるで後悔したように顔をこわばらせた。
「…あのさ、」
頑張れ速水、と友達が小さい声で応援している。
「今日空いてる時間…ある?」
速水先輩…
文化祭一緒に回ろうと…花城を誘いに来たんだ!
「え…っと」
「光は後5分で休憩です!」
花城が恥ずかしそうに俯いた時、いつから聞いてたのか、教室から鷹野が顔を出して言い放った。
「ちょ…司!」
「あ…そーなんだ」
ありがとう、と速水先輩ははにかんで、また花城を見た。
「そしたらよかったら、一緒に…回ってくれない、かな?」
「……。」
花城の目が彷徨い、速水先輩を見上げた…。
「行きなよ光ー!速水先輩、行けまーす!ほらっ!もういいから行って来な!!」
「ちょ…、え?司!」
痺れを切らした鷹野が教室から出て来て、花城の背を押して速水先輩に押し付けた。
「光は2時からのシフトまで自由なんで!連れ回しちゃってくださ〜い」
「あはは…、なんか、ごめん。大丈夫?」
戸惑いながらも嬉しそうな笑顔で速水先輩が尋ねると、花城は苦笑しながら、そして躊躇いがちな赤い顔で…はい、と頷いた。
「早い者勝ちですからね〜」
ニヤニヤと鷹野が言うと、御幸先輩が疲れたような顔をした。
「じゃあ…」
行こうか、と速水先輩が言いかけた時。
何かに気づいた速水先輩が、素早く花城の肩を抱き寄せた。
騒がしい集団が通過したのを花城にぶつからないように庇ったのだと気づいたときには、花城は速水先輩の胸に体を密着させて、耳まで赤くなっていて…
ヒューウ、透やるう、などと、速水先輩の友達が囃し立てて、速水先輩は冷静に、カッコつけなくてもカッコいい落ち着いた態度で、やめろよ、と嗜めた。
「ごめん、大丈夫だった?」
「は、はい」
「せっかく、可愛いカッコしてるから…」
だめだ。
もう、二人きりの世界…。
見ているのが辛いほどに…。
「じゃあ…、」
速水先輩が花城から手を放し、紳士的にほほ笑む。
そのときだった。
「あーーーーっ!!」
廊下中に響き渡った声で、俺たちは飛び上がった。