浴衣姿の花城が可愛すぎて直視できない。うっかり赤面しそうになる。うなじや鎖骨が出ていて、いつもより色っぽいし…。
だからふざけてからかうことしかできなかったガキの俺は、速水が真っ赤な顔で花城をほめたのを見て、勝手に敗北感を感じていた。

だから速水に花城を取られそうになっても何も言えなかったし…速水に抱き寄せられて顔を赤くする花城を見て、息が止まりそうだった…。

なんで俺は、一緒に文化祭回ろうって…それだけのことが言えねえんだ。

「あーーーーっ!!」

焦燥感を途切れさせたのは、その突然の叫び声だった。

「光ちゃんみーーつけた!ほらね〜!?やっぱ一年のクラス片っ端から回ればいいって俺の言ったとおりでしょ!」
「あたりまえだけどな…」

人ごみをかき分けて現れたのは、白いベストの稲実の制服集団…鳴とそのチームメイトたちだった。

「光ちゃん久しぶり!!俺のこと覚えてるよね!?ほら夏の地方予選の決勝の時…」

鳴は人目もはばからず花城に近づき、その両手をつかんだ。

「え…っと」
「成宮だよ」
「あっ、成宮さん…」

困惑する花城にぼそりとつぶやくと、花城は思い出したように苦笑した。

「やっぱ覚えててくれたんだね!」
「お前今のきいてた?」

鳴には都合のいいようにしか見えていないらしい。

「てか浴衣じゃん!ちょー似合う!カワイイ!」
「ど、どうも…」
「うなじ色っぽいし〜!脱がしたくなっちゃ…」
「ちょ、ちょっと」

隣で聞いてた速水が身を挺して花城をかばった。

「よ、よくないですよそういうこと言うの…」

速水…いい奴。

「え?お前何?…まさか光ちゃんコイツと付き合ってんの!?」
「いや!違うけど」
「なーんだ!…お前何かスポーツやってる?」

選手としての定めか、成宮は速水の引き締まった体を見て眉間を寄せた。

「一応サッカー部…だけど」
「サッカーあああ!?いけすかね〜!!」
「ええ…?」

「理不尽すぎる…」
「イケメンだからだろ」

成宮の後ろで稲実生たちがぼそぼそと文句を言っている。

「で、お前は光ちゃんのなんなわけ?」
「何って…」

速水は返答に困り、苦笑した。

「ただ俺が勝手に…誘っただけで」
「えー!光ちゃんコイツとデートすんの!?」
「……。」
「……。」

速水が窺うように花城を見て、花城も困ったように苦笑した。
そうだ、花城の真意はわからない。速水のことを良いと思っているとしても、花城には哲さんがいるんだし…。

「…私は…。」

花城が口を開き、全員が注目した、そのとき。

「…うわ、なんか大集合してんじゃん」

また新たな人物の声が響いた。

「花城さん!久しぶり!」
「…真田!」

こ、こいつまで来るとは…。

「薬師の熱血クンじゃん。俺の光ちゃんに何の用?てか、知り合い?」

成宮が面白くない顔をして真田と対峙した。

「俺の…?」
「俺のって言ったぞ」
「名前も忘れられてたのにな」

成宮の発言に一瞬ひるんだ真田だったが、稲実生たちのボヤキを聞いて苦笑顔に変わった。

「あー…まあいいや。花城さん!ごめん、メール返ってこなかったから。メーワクだと思ったんすけど、やっぱもう一度会いたくて」
「…はあ〜!?そんなんもうフラれてんじゃん!メーワクだよねえ光ちゃん!」

「動揺してるぞ」
「真田があの子の連絡先知ってたからだろ」
「自分は名前も忘れられてたしな…」
「おい!さっきからうるさいんだけど!?」

「あの…メール届いてないですけど…」
「…え!?」

ぎこちなく、花城が言って、真田は心底驚いた顔をした。

「まじすか!?え!?あ!じゃあアドレス間違ってんのかな…?も、もう一回聞いていいですか!?」
「ダメ〜!!」
「なんでお前が拒否るんだよ!」

成宮が妨害し、真田とにらみ合う。困り果てた速水が花城を見つめ、俺と倉持もちらりと顔を見合わせた。
なんだこの状況…。

「なんか収集つかなくなってきたわ〜」
「鷹野…他人事みたいに…」

俺たちの後ろで東条と鷹野もそんなことを言っている。
花城は困った顔で自分のために争う男たちを見つめ、助けを求めるように遠くを見つめ…。

「…あっ!」

突然、花城が珍しく大きい声をあげて、俺たちは一斉に静まり返った。

「ちょっと!逃げないでよ!」
「離せって…」

花城が人ごみの中にいる一人の男の腕をつかみ、成宮たちも速水も騒然とする。
鷹野と東条もぽかんとして、興味津々に花城とその男を見ている。

男は白いブレザーの制服姿で、腕には大層な校章の刺繍がされている。顔は見えないが…

「あれ…白栄じゃね?」

誰かがぼそりとつぶやいた。白栄学院。幼稚舎から大学院まであるお金持ち学校で、都内でも随一の偏差値の、いわゆるエリート校だ。
男はやがて観念したように抵抗をやめ、花城を振り向いた。

「うわっ!!イケメン!!」
「…鷹野」

金髪に碧眼、整った端正な顔。まるで王子様を描いた通りの容姿に、周りの女子が騒ぎ出した。

「…光ちゃん誰ソイツ!?」

空気を読まない成宮が今はありがたい。思わぬ新たなライバル(かもしれない)やけに花城と親しそうな美形エリートを前に、成宮たちも怯んだのが分かった。

「従弟です!」

花城は縋るような目で言い、男の腕を捕まえている。

「…従弟!?」

確かに…ちょっと似ている…。
そしてやっぱりこの美貌は、家系なのか…。

「なんか揉めてんの…?巻き込むなよ」
「違うから!」

従弟は迷惑そうに腕を引き、花城は逃がすまいと掴む力を強めた。

「ちょっと、あの…私、従弟と回るので!すみません!」
「え…」
「ほら!行こ!」

…あんなに強引な花城は珍しい。従弟が迷惑そうに連れていかれるのも相まって、なんか、悔しい。

「フラれたな〜。諦めろ」
「腹減ったしなんか食いもん買いに行こうぜ」

成宮が稲実生たちに引きずられていく。

「俺らも行こうぜ…」
「真田〜戻ってこい」

真田も同様に…。

「で…先輩たちは?入ります?」

俺と倉持は鷹野の声で我に返った。

「いや、コイツと茶ァなんて気色わりーし」
「…倉持ク〜ン、冷たくない〜?」
「くっつくな気持ちわりぃ!」

045

ALICE+