「ぶっ……。」
少し後ろを歩いていた倉持が噴き出した。
「ぶふっ…。くっ…。」
「…おい。笑い堪えるのやめろ」
「ぶひゃははははは!!」
「それは遠慮なさすぎだろ!」
倉持は周りの視線も気にせず腹を抱えてひとしきり大笑いすると、バカにしたように俺を見た。
「ひー…だってオメー、鷹野に図星…」
「は!?違うから」
「声デケェよ」
顔が熱くなる。倉持に揶揄われるなんて。俺、そんなわかりやすいか…?」
「素直になれよ、花城さん誘いたかったんだろ?」
「…ちげえよ」
「お前が女子に絡むのって花城さんくらいじゃん。バレバレだっつうの」
「…えぇ?」
「あ、やっぱそうなんじゃん」
「……。」
俺はその場に膝をつきたい衝動に駆られた。…寸のところで周りの視線を気にして思いとどまったけど。
「速水みたいにハッキリ言えばいいのに。お前顔だけは無駄にいいんだから。無駄に。」
「…うるせーな」
「まー花城さんはわかんねーけど、お前に好かれて嫌な女子はいねえだろ」
「…何?褒めてんの?」
「いやいや、実際オメーしょっちゅう女子から告られてんだろーが」
「……。」
それは…否定しないけど。閉口した俺を倉持は冷ややかに睨んだ。
「で、どーすんの?再トライする?」
倉持は花城たちがいた方向を親指で後ろ手に指した。
「いや…ほんとに誘おうとは思ってないから」
ただ、花城の浴衣姿を見たかっただけで…。
「ああ?なんでだよ。速水に取られちまうぞ」
「…いや〜」
「何?何かあんの?」
倉持には言ってもいい…か?
言いふらしたりはしねえだろうし…こいつも花城にちょっと気がありそうな節、あるし…。
「…あいつ好きな相手いるからさ」
「……え!?」
倉持は驚いて固まり、目を白黒させた。ゲームみたいに、頭上に読み込み中の文字が出ているように見える。
「好きな相手…って、花城さんの!?」
「…そーだよ。別に、驚くこたねえだろ」
「いやビックリだよ!!花城さんは学校一の美女だぞ!?一体誰…」
「哲さんだよ」
「て…、え!?」
てつさん、と、倉持は乾いた声で繰り返し、青ざめた。
「ま…マジ!?」
「本人はムキになって否定するけど。」
「じゃ…違うんじゃね?」
「いや、最近よく一緒に帰ったりしてたし…両思いみたいなもんなんだよ」
「え〜…!!なんか…スゲェショック」
「なんでだよ」
突っ込んだものの、実際口に出した俺も今相当凹んでいた。もう慣れたと思っていたのに…やっぱすげえ嫌だ。花城に好きな人がいるなんて…。
しかも俺も尊敬できるほどの、悪いところなんて見当たらない…哲さん。
変な男だったら、全力で奪いに行けるのに。
「…じゃ、速水それ知らねえの?」
「知らねえだろうな」
「うわ〜、そりゃ同情するぜ…。教えてやった方がいいんじゃね?」
「いや…」
…速水は速水で、花城の想い人は…俺、だと思ってるっぽいんだよな…。でも、それでも今もアプローチを続けているんだから、速水に哲さんのことを教えたところで…。
「…まあまだちゃんと付き合ってるとかじゃないみたいだし…外野の俺らが言うのもちげえだろ」
「そうかもしれねーけど…って、両思いならなんで付き合わないんだよ?」
「哲さん真面目だからな…受験が終わったら告るんじゃねーの」
「ああ〜…」
倉持は唸り、そして、何も言えないといった様子で空を仰いだ。俺もつられて上を見上げる。空は、皮肉なほどに青く晴れ渡っていた。
***
午後になり、クラスの露店の手伝いをしていると、哲さんたち野球部を引退した3年のメンバーがやってきた。
「お前ら儲かってるか〜!?」
「ここって倉持の奢り?」
「り、亮さんそれはキツいっすよ」
盛り上がるメンツの横でいつも通り落ち着いた笑みを浮かべる寡黙な哲さん。午前は花城のところに姿を表さなかったし…午後もこうして亮さんたちと一緒にいる…のか。
俺は会計を倉持に任せ、少し露店から出て哲さんに声をかけた。
「哲さん…あいつとは一緒に回らないんですか?」
「ん?ああ、花城か?」
「はい…あ、もしかして明日ですか?最終日の方が盛り上がりますもんね…」
尋ねておいて自己完結して苦笑をこぼした俺に、哲さんはフッと寂しそうに笑った。
「いや、断られたんだ」
「……え?」
「哲ゥ!お前何にするんだよ?」
驚いて言葉を失った隙に哲さんは純さんに呼ばれ、行ってしまった。
断った…?花城が?なんで??
速水とは、一緒に行こうとしてた…よな。
…やっぱり速水に惹かれ始めた…とか?いや、でも、喜んでという感じではなかった…あれは鷹野が強引に後押ししたところもあるし…。
…いやいや、ただ単に、周りに冷やかされるのが恥ずかしくて断っただけかも。そうだよな、うん。
「ありがとうございましたー」
3年たちが立ち去ると、倉持が不思議そうに俺を見る。
「仕事サボって哲さんと何話してたんだよ?」
「…いや、なんでもない」
「ハア?」
ガンをつけてくる倉持を無視し、俺はまた思考に陥った。…ずっと花城のことで頭がいっぱいじゃねーか…どうかしてるな。