鷹野に言われてよくわからないまま校舎裏に行くと、非常階段に座る女子生徒の姿を見つけて俺は固まった。
こっちを見上げて目を丸くした、花城。
…鷹野、何が狙いだ…!?

「えっ!?な、なんで…」

花城も動揺している。本当に鷹野ひとりの策略?らしい…

「いや鷹野にここに来いって言われて…?」
「なんで!?」
「知らねえよ…」

俺が頭を掻くのを見て、花城は不満げに閉口した。

「なんでこんなとこにいんの?せっかくの文化祭なのに」

俺は近づいて行って、花城の隣に腰を下ろした。

「…べつに…時間潰してるだけです」
「なんでだよ。文化祭見て回らねーの?今日最終日だし…昨日よりイベント多いぞ」
「…ナンパがうざいから」

え…。や、やっぱ花城ってそういう声もうざいほどかけられんのか。まあ…これだけ別嬪だもんなあ…。

「…じゃ…」

俺は何食わぬ顔を崩さぬよう頬に力を入れて、勇気を振り絞った。

「俺と一緒に回る?」
「…え?」
「な〜んちゃって…はっはっは」

…真面目になりきれないのが俺のガキなところ…。
あー、せっかく勇気を出したのに。自分で茶化してどーすんだ。アホか俺は。アホだ。
…なんて自暴自棄になり始めた時、

「…じゃあ、行く」

と、花城が言って、俺は一瞬言葉が理解できなかった。

「…え!?」
「え?」
「あ、いや…、なんでもねえ。」
「……。」
「……え、本気で?」
「何?嫌なら言わないでよ。」
「い、嫌とかじゃねえって!」

なにかき回してんだ俺…!深く突っ込まずにサラッと受け入れりゃあよかったのに…!
でも昨日あんだけの男たちが振られてたのに、こんなにあっさり誘えるなんて…なんだか信じられなくて。

「…あ、そっか。」

花城は急に低い声でつぶやいた。なんだ…?なんか雰囲気変わったぞ。

「先輩、好きな人いるもんね。」
「…は?」
「見られたら嫌だよね。」

そう言って膝の上で腕を抱え、拗ねたようにそこに頬をつける花城。なんだこの可愛い生き物…
つーか…
…え、なに?やきもち…?いや、まさかな…

「いやそれは…」
「……。」

…お前のことなんだけど…。

「…あ!!」
「な、なに?ビックリした…」

好きな人、というワードで、俺は突然昨日の疑問を思い出した。

「そうだお前!なんで哲さんの誘い断ったんだよ」
「…え?なにが?」
「哲さん!文化祭誘われたんだろ?」
「え…なんで知ってるの」
「哲さんに聞いたから…断られたって」

花城は唇を結んでしばらく黙り込んだ。

「…なんでそんなこと聞くの?」
「え?」
「…ないのに…」
「…え?なに?」

ボソボソとつぶやいた花城の声が聞き取れなくて、俺は身を乗り出した。花城は不貞腐れたように地面をじっと睨んでいたが、急に顔を上げて俺の方を向き、俺を睨むように見つめてきた。

「…なんでいつも結城先輩のこと聞くの?そんなに付き合ってほしい?」
「え、いや…」
「御幸先輩に関係ないじゃん!」
「そうだけど…」
「いつも哲さん哲さんって、うざいんだけど。」
「うざ…。わ、悪かったって」
「自分はどうなの?」
「え?」
「…御幸先輩の好きな人って誰なの?」

花城がそう呟き、その顔はじわじわと赤く染まっていく。想定外の質問に息を呑んだ俺も…顔が熱くなっていく。こんなに至近距離で花城と見つめあったのは初めてで…ダメだとわかっていても、息をするのも忘れて見惚れてしまう。吸い込まれそうな瞳。少し潤んで、戸惑った俺の顔が映っている。

「俺の好きな…」

時間が止まったような気がした。

「…人は…」

一瞬怯んだように揺れる花城の瞳。眉根が寄り、聞きたくない、と逃げるように僅かに身を引いた。

「…花城だよ」

花城の目が丸くなって、俺を凝視した。

「え…?」

花城は真っ赤な顔のまましばらく固まって、やがて僅かに口を開いたかと思うと、じり、と足を動かした。
逃げる準備をする小動物のように…。

「…花城、」
「無理!!」

宥めようと手を伸ばしたら、花城はその手を振り払ってそう言い放ち、脱兎の如く逃げて行った。

「…え?」

…無理…って言った?今?
ちょ、ちょっと待ってくれ…

……俺、振られた?


***


「あれ、お前戻ってたのかよ」

行くあてもなくクラスの露店に戻って黄昏ていると、しばらくして倉持が現れた。シフトの時間で戻ってきたらしい。もうそんな時間か…

「鷹野が言ってたのって何だったんだよ?」
「…なんでもねー」
「は?」

言えるわけない…花城に告って振られたなんて。
…何で俺、告っちまったんだろう…

無理って言われた…もう今までのように会うのも気まずくなっちまったな…。

「…お前なんか涙目?」
「別に…」
「すみませ〜ん!注文いいですか?」
「あ…ハイ!」

倉持は俺を一瞥して、さっさと準備しろよ、と吐き捨て、舌打ちまで残して客の対応に向かった。

…無理…か。

無理……。


「御幸せんぱーい!!」

…なんか騒がしい声がする。

「…オイ御幸!鷹野が呼んでんぞ」

放心して立ち上がれないでいたら倉持にどつかれた。渋々立ち上がって露店の外に出ると、待ちかねた様子で鷹野が駆け寄ってきた。

「御幸先輩、校舎裏行ったんですよね!?」
「……。」
「行かなかったんですか!?」
「いや…行ったけど」
「ああなんだ!じゃ光と会いました?」
「……。」
「ちょっと!どうなんですか!?」

鷹野の剣幕に押されてちょっと頭が冷えてきた俺は、気を取り直して息を吐いた。

「会ったけど…何で鷹野は俺に行かせたの?」
「なんでって、そりゃ…面白いかな〜と思って」
「…はい?」
「で、何があったんですかあ?」
「何って…」

俺、振られたんだけど…。

「…花城は何て言ってんの?」
「それが光、何も話してくれなくて〜」
「…ああそう」
「なんかずっと落ち込んでるんですよねえ」
「え…」

それって…俺が無理すぎて?振られた上にそこまで嫌われてるなんて流石に凹むぞ…

「なんか御幸先輩も落ち込んでます?」
「こいつさっきからおかしいんだよ」

倉持が接客の合間に横槍を入れてきた。

「…花城に謝っといて」
「え?謝る…?」

ぼそりとつぶやいた言葉に、鷹野が不思議そうに目を瞬いた。

「気にすんなって言っといて。」
「え?え??」
「じゃ。」

それだけ言って、俺は居た堪れずにその場を後にした。

「あっ…オイ御幸サボんな!」

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