後夜祭も無事終わり…
いつもの日常が帰ってきた。
「なあ聞いた?花城さんの話」
「ああ…文化祭のとき、他校からも花城さん目当ての奴が集まって奪い合ってたってやつ?」
「それそれ…スゲェよな」
クラスの奴らの噂話が聞こえる。
花城…
…あれから話してない。
どうしよ…鷹野に様子を聞く?いや教室行ったら花城とも会うよな…。花城は俺が目の前に現れたら嫌だろうし…。
なんせ…無理!って逃げるほどなんだから…
「はあ…」
「んだよこないだからため息ばっかつきやがって!クソウゼェな」
倉持が心底ウザそうに俺を怒鳴りつけた。
「おい次移動教室だぞ!」
「あ〜…」
「シャキッとしろ!このデブ」
倉持に叱咤されながら俺は教科書とノートと筆箱を何とか用意して席を立ち、廊下に出た。
「お前ホント文化祭の時からおかしくなってねえか?」
「…そう?」
相変わらず鋭い倉持にギクリとしつつ…それだけ俺が腑抜けてるのかとも思う。何かしていないとずっと花城のことで頭がいっぱいで…気が紛れるのは部活中くらいだ。
「部活の時はまだまともになるから別にいいけどよ…」
倉持が言いかけて、ふと前を見た。
「あ…花城さんだ」
「えっ」
倉持の呟き通り、廊下の向こうから花城と鷹野が歩いてくるのが見えた。二人は何か話し込んでいて、まだこっちには気付いてない。
「従弟の名前教えてよ〜」
「光臣だよ」
「光臣君!?歳は!?」
「同い年だけど…?」
「彼女いるの!?」
「さあ…いないんじゃない?」
「光、仲良いの!?」
「別に普通…」
ふと、花城が俺に視線を向け…た。
「きゃ!!?」
花城は驚いて叫び、鷹野に隠れるようにして掴まった。…悲鳴上げられた…。
「よぉ……元気?」
へらり、と平静を装って鷹野と花城に挨拶をする。無視すんのもなんか不自然だし…。精一杯の強がりだ。
「元気で〜す…」
鷹野が返答し、花城と俺を見比べるようにそわそわと視線を動かす。何かいいたげな…もしかして花城から全部聞いた?別にいいけど…
「そお…なら、よかった…」
「……。」
「……。」
鷹野が花城を見て、花城が鷹野を見つめ返し、ぷるぷる、と首を小さく横に振る。
「あ…じゃあ…し、失礼しま〜す」
てへへ、と愛想笑いを浮かべながら、鷹野は花城とくっついたまま俺たちの横を通り、歩いて行った。
「…何今の?」
何かあったんだろ、と問い詰めるように目を細めて俺を睨む倉持。
「いや…なんでもない」
「嘘つけ!」
「ほんとにほんとに…」
言えるわけねー…花城に振られた、なんて。
***
このまま気まずくなるのは嫌だなあ…
何となくそう考えながら渡り廊下の自販機横のベンチでぼーっとしていると、図書室のある校舎方面から、花城が歩いてくる姿が見えた。
胸に本を抱えて、風に髪を靡かせ、その姿は楚々として…いろんな奴が憧れるのもわかる。
俺はグッと喉に力を込めた。
「花城!」
声を振り絞ると、パッとこちらに視線を向けた花城が固まった。
「ちょっと来いよ。」
俺はできるだけ軽い調子で、まるで何事もなかったように花城を呼び寄せた。花城は少し迷ったあと、立ち止まった手前素通りもできないと観念した様子で、おずおずと歩いてきた。
「…こんにちは」
「おう。」
俺も立ち上がり、飲みかけのペットボトルを手で弄ぶ。
「図書室で本借りたの?」
「え…、はい」
「真面目だな〜」
花城は俺の態度に少し安堵したように表情を緩めた。気まずく感じていたのは花城も同じらしい。
「あのさ…」
だけど俺が改まって切り出すと、花城は身構えて固まった。
「文化祭のときのことだけど…」
「……。」
花城は足元を見つめて本を持つ手に力を込める。
「…冗談だから、気にすんな。」
「…え?」
これが一番…最善のはず。
「いや〜まさかあんなガチめに振られるとは…さすがにちょっと凹んだわ!」
「……。」
笑うふりをする俺の顔が痛々しくないことを願う。花城はやっと顔を上げ、俺の顔を見上げた。
「じょ、冗談?」
「え?おう。」
「……。」
そしてじわじわと顔を赤くして、身を硬くする。
「な…、なんだ…」
それから安堵したように呟いた花城に、俺は胸がチクリと痛んだ。
「びっくりした?」
「しましたよ!もう…、」
「ごめんって…俺が悪かったよ」
「……。」
花城は少し落ち着いた様子で黙り、小さく息を吐いた。
「じゃ…それだけだから。」
「え…あ、はい…」
俺はペットボトルを足にぶつけて弄びながら、ふざけた調子を装って花城から離れた。
これでよかったんだ…