今日は中間テストの最終日。
チャイムが鳴ると同時にみんな一斉に席を立つ。
俺の前の席の速水なんて、やたら急いで荷物をスポーツバッグに押し込み、教室を飛び出していった。
そんなに早く遊びに行きたいのか。…なんて考えていると、倉持が俺のもとにやってきた。
「今日お前も来るだろ?」
「あー、まあ…」
倉持は中田たちと駅のほうへ遊びに行くらしい。俺もゾノ伝いに一応声を掛けられていたため、ついさっきまでどうしようか決めかねていたが、どうせ明日からは部活に復帰して嫌でもしごかれるので今日のうちに羽を伸ばそうと思い、一緒に行くことにした。
「ボーリングしてえなー」
「好きだねえ…」
倉持と階段を下りていって1年のクラスがあるフロアを通過する。ここを通るとき、いつも頭の片隅に花城の顔がよぎる…。偶然会えたりしないかな、なんて…
「あ…花城さん!」
ぎくりとした。俺は倉持と顔を見合わせ、声の主を探して廊下を見渡した。すると少し向こうに速水の姿を見つけ、その近くに花城がいるのも見つけた。
二人は何か話しはじめる。速水、まだ諦めてないのか…あれだけモテる速水が、こんなに長い間片思いを続けるとは。それほど花城のことが好きなのか…
「ねー、また速水先輩来てるよ」
「あホントだ!やっぱカッコいい〜」
近くにいた1年の女子たちが噂話を始めた。また…って、普段からよく来てるのか?
「また花城さんでしょー?やっぱ付き合ってんのかな」
「お似合いだよね〜」
「ね〜、美男美女で目の保養」
「……。」
「……。」
俺が倉持を見ると倉持も複雑そうな目で俺を見た。
「D組の子、速水先輩に告ったら好きな人いるって言われたらしいしー」
「えーそれって絶対花城さんのことじゃん!」
「だよねー」
噂話が漏れ聞こえたのだろうか、花城が不意にこっちに目を向けた。バチッと目が合い、俺は心臓がはねた。
そして…花城はすぐに俺から目をそらし、速水を見上げて、頷いた。
「えっ…ホント!?」
速水が何か喜んだような声が聞こえた。すると花城が教室に入っていき、速水はその前でポケットに手を突っ込んで待ち始めた。少しして花城がバッグを持って廊下に出てくると、二人は並んでこっちに歩いてきた。
「ねー!一緒に帰るみたい!」
「やっぱ付き合ってるって絶対!」
「美男美女カップルじゃん〜」
二人が近づいてくると、速水も俺と倉持に気が付いた様子ではにかんだ。
「あ…御幸、倉持。また明日」
「おう…」
「ああ…」
俺たちの前を爽やかに通過して階段を下りていく速水と花城。
花城…俺を見もしなかった。
「おいどーなってんの!?哲さんとはどーなったんだよ!?」
「知らねーよ…」
どういうつもりだよ…花城…。
***
昇降口で中田たちと合流し、俺たちは駅方面へ向かった。
「なんか倉持たち元気なくない?」
ノリが言って、別に、と倉持がつぶやく。その声がまた覇気がなくて、ノリは白州と不思議そうに顔を見合わせた。
「…まあいいや。俺タワレコ行きたいんだけどいい?」
「ああ、いいぜ…」
「とりあえず腹減ったし、なんか食ってからにしねえ?」
「賛成」
駅回りには定期テストから解放された青道生の姿が多くみられた。俺たちはマックで昼食を済ませ、ノリの行きたがっていた店へ向かう。ほしいものは決まっていたようで、ノリと白州がCDを買い、次はゲーセンでも行くかとゾロゾロ歩き出した時だった。
「…あっ!?えっ、オイ!」
先頭を歩いていた麻生が突然慌てだした。
「どしたの?」
「アレ見ろ!アレ!スタバの前!」
麻生が指さすほうを見る。そこにはスタバから今出てきたかのような、さわやかな高校生カップル…
「アレ速水と花城さんじゃね!!?」
麻生の声を聴いてノリや白州や中田は驚いて騒ぎ出す。が、俺と倉持は疲れた顔で目を見合わせた。
「クッソやっぱイケメンかよ!!」
「へー…お似合いじゃん」
「おいノリ!!何納得してんだよ!!悔しくねーのかよ!!」
「へ?いや、自分が付き合ったりできる相手とは思ってないし」
「謙虚な奴だな…」
そうこうしているうちに二人がこっちに近づいてきて、速水が気づいたように苦笑を浮かべて顔を赤くした。
「あれ?御幸達…また会ったなー」
ははは、とさわやかな照れ笑いを浮かべる速水。男でもイケメンだと思う。
その隣で、これまた可憐な花城は、真っ白な陶器のような肌をほんのりと桃色に染めてうつむいている。
どこからどう見てもお似合いすぎる、さわやか青春カップル…。悔しいほどに。
「おー、お二人さん、デート?」
こうやって茶化すのが、今の俺の精いっぱいの強がりだった。花城は黙ったままさらに顔を赤くし、速水は照れ笑いを隠すように口元に手を当てた。
「え、いやっ…、うーん、まあ、そういう…ことに、なる、のかな…」
「……。」
…これ以上見たくないし聞きたくない。もう逃げ出してしまいたい。
「まあ…俺がちょっとしつこく、誘ったんだけどさ。あはは」
速水は照れながら、そう完璧に花城へのフォローまでやってのけた。
「あ、そう…」
「あ…、じゃあな。」
行こう、と速水が声をかけ、花城がうなずく。二人は連れ立って、駅ビルのほうへ歩いて行った。
「…ぐあああ〜〜〜!なんだこのモヤモヤは!!」
「…嫉妬、じゃない?」
「ちくしょ〜〜〜!イケメンばっかり〜〜〜!!」
盛り上がる麻生達を笑う気力も、今の俺にはなかった。
まさかこのまま花城が速水と付き合う…なんてことは、ないよな…?