「花城!おはよう」
俺を見上げた花城が微笑みを浮かべる。
これだけで幸せな気分になる。
「おはよう。」
「足、大丈夫?」
「もう大丈夫だよ。」
「本当ごめんな、俺がちゃんと支えてたら…」
「いやいや、俺が転けたんだって!ごめん花城さん!」
「いやいやいや、俺もバランス崩した!ごめん!」
話が聞こえたらしい三宅と榊も声をかけてきて、花城は笑顔で首を振る。
「ううん。私は騎馬戦の練習もしてなかったし…足引っ張っちゃってごめん。」
「そんなことないって!花城さんめちゃくちゃハチマキ取ったし」
「そうだよ!紅組優勝したし」
「だけど花城さんに怪我させちまうとは…」
「もう全然痛くないから。」
気にしないで、と微笑んだ花城に、一度ぽーっと見惚れてしまった。
「光〜!おっはよ〜!足大丈夫ぅ!?」
と、そこへ元気いっぱいに教室に入ってくる鷹野さん。花城は明るく笑って迎え入れた。
花城が足を痛めた時…結城先輩の行動には驚いた。それに、ちょっと悔しかったりして…。
だけど花城…体育祭の日からなんだか、明るくなった気がする。
「ジュース買いに行こ〜」
「うん。」
「あ…俺も!」
3人で自販機にジュースを買いに行くと、ちょうど自販機の前にいた御幸先輩と出会した。
「お…」
「あ〜御幸先輩!おはようございまーす」
すこし虚をつかれたように固まった御幸先輩は、鷹野さんの元気いっぱいの声で我に返ったらしい。
「おー、おはよ」
「先輩も怪我はもう大丈夫ですかぁ?」
「俺はもう全然へーきだよ」
御幸先輩は買ったお茶を手に自販機から離れて花城を見た。
「お前は足大丈夫なのか?」
「あ…はい、もう痛くないです」
頷いた花城に、そうか、よかった、と呟いた御幸先輩は、どこか寂しい目をして花城を見つめた。
「…おめでとう」
「…え?」
突然、御幸先輩が花城を祝った。花城自身はキョトンとしたけど、御幸先輩は勝手に満足したように、じゃあな、と手をあげて行ってしまった。
「…光誕生日だっけ?」
「いや、違う」
「だよねぇ?何?おめでとうって」
「さあ…?紅組優勝?」
「あの人も紅組じゃん」
「そうだけど…」
首をかしげる花城。本に心当たりがないらしい。
「何なんだろ」
そう呟いて、花城は俺を見て、とても綺麗に笑った。
***
「あ…、なあ、1Aの人だよね?」
廊下で呼び止められて振り向くと、見慣れた先輩…速水先輩が立っていた。
「はい。」
「悪いんだけど…花城さん呼んでくれる?」
「あ…わかりました。」
速水先輩が花城に会いに来るのは珍しいことではない。むしろ春ごろから今までずっと…だから、なんで付き合わないんだ、と俺たちみたいな平凡な高校生には不思議で仕方ない。美男美女だし…。
だけど花城が誰かと付き合ったら…、…多分俺、結構凹む…。
「花城。速水先輩が呼んでるよ」
自分の席にいた花城に声をかけると、花城は少し顔を赤くして立ち上がった。
「ありがとう。」
俺にそう言って、教室を出ていく花城。やって来た花城に、速水先輩は嬉しそうにほほを緩めて…。
ふたりは爽やかカップルのようなキラキラした空気を振りまきながら、どこかへ行った。
「光、また速水先輩?」
様子を見ていたらしい鷹野がやってきて俺に尋ねる。
「うん。」
「いや〜モテるなぁ〜!御幸先輩が知ったら悲しんじゃう〜」
「あ〜…」
御幸先輩…か。やっぱあの人も花城のこと、好きだよなぁ・・・。
「…鷹野は花城の好きな人が誰か知らないの?」
友達のふりをして、平静なふりをして、俺は聞いた。
「え…、えぇ〜?いやぁ〜…」
「あ、知ってそう」
「いやいやいや!わかんないわかんない!」
「鷹野、ウソつくの下手だな〜」
「やめてよもぉ〜!」
俺は精いっぱいの笑顔で茶化しながら、ズキズキと痛む胸にこっそりと手を乗せた。
…そっか、花城…好きな人いるんだ…。