花城と会えない冬休みは退屈で、瞬く間に過ぎ去った。
あけましておめでとう、とすら言えないことを…連絡先すら聞けなかった自分を恨みながら…。
そして新学期、久々の制服に身を包んで登校すると、教室はすでに賑わっていた。
「速水!聞いたぞ!!」
俺の前の席で、速水を友達が取り囲んでいる。
「あの子と初詣来てたんだって!?」
「塚本が見たって言ってたぞ!!」
え…。
「あー…うん、あはは。」
速水と…花城が、一緒に初詣!?
「付き合ってんの!?」
「いやいや、初詣一緒に行っただけ…」
「両思いじゃねーのそれ!?」
「いや〜わかんないって…」
「もう告っちゃえよ!」
立ち尽くしそうになるのを必死で堪えながら、なんとか自分の席に辿り着き、荷物を置く。速水が少し俺を振り向き、すぐに前を向く。
「…ほんとに違うから、あんま騒ぐなよ」
頼むから、と速水が言うと、友人らは善意の態度で声を顰め、わかった、内緒だな、と頷いた。
***
廊下で久々の花城の姿を見つけ、嬉しくなる。しかも一人。新学期早々ラッキー…
「よっ。あけましておめでとう」
「…あけましておめでとうございます」
声をかけると花城はそう言い、急ぐように俺の横を通り抜けた。
「おいどこ行くんだよ。」
「職員室に呼ばれてるんです」
「へー。じゃついてこ〜」
「うざ…」
「はっはっは!変わってねーなあ」
花城の隣を歩き、俺は頭の後ろで手を組んだ。
「速水と初詣行ったってマジ?」
そしていつもの調子で、思い切って尋ねた。
「…まあ」
あ…やばい、思ったよりグサっときた…。
「…お前速水のこと好きなの?」
「なんでですか?」
「だって二人っきりで初詣ってさ〜…」
「悪いですか?」
「いやだって…」
花城の意図が読めない…
速水のことを好きじゃないなら、なんで二人きりで初詣なんて行くんだ。でも、速水のことが好きだから…と言われたら、俺は立ち直れる気がしない。
「…速水はお前のこと好きなんだぜ?」
花城の横顔を窺う。口は閉ざされたままだ。そんなことは知っている、とでも言うかのような…。
「そうやって会ってたら…速水は期待すると思うし」
「期待?」
「…付き合えるかもって」
何を言ってんだ、俺は…。関係ないでしょ、って言われるだろうな。そう思った時。
「…それでもいいかなって、最近思ってます」
一瞬、周りの喧騒が聞こえなくなった。
「えっ…」
「……。」
「だってお前…好きな人いるんじゃ?」
「…望みがなさそうだから」
「え?」
「速水先輩、…優しくていい人だし」
待て…待て待て待て。
このまま速水と花城が付き合う…?絶対嫌だ!俺はいまだに…連絡先すらも聞けず…。
だからと言って本命の好きな人への気持ちを応援しても…どちらにせよ俺は失恋…。
クソっ、どうしたら…!?
「…いやいやいや早まるなって!」
「は…?」
「そんな動機で付き合わない方がいい。絶対。」
とにかく速水と付き合うのは阻止したい…!
「…何なの?」
花城は訝しげに俺を睨み、見えてきた職員室のドアに近寄り、ノックした。
ガラガラ、と引き戸を開き、花城は礼儀正しく背筋を伸ばす。
「すみません、高島先生はいらっしゃいますか?」
「あ、花城さん。」
声に気がついた礼ちゃんがやってきて、俺の姿を見て目を丸くする。
「なんで御幸君がいるの?」
「付きまとってくるんです。」
「おい変な言い方するな!」
礼ちゃんは俺を疑いの眼差しで睨み、花城に向き直る。
「じゃ…花城さん悪いけど、これお願いね。」
「はい。」
配布物らしきプリントの束を受け渡し、礼ちゃんは花城の方に身をかがめた。
「先輩に困ったらいつでも相談してね。」
「はい。ありがとうございます。」
「酷くないですか?」
ウフフと笑いながらデスクに戻っていく礼ちゃん。花城は失礼しましたとお辞儀をしてドアを閉め、踵を返す。教室に戻るらしい。
「…じゃ、もし今速水が告ってきたら付き合うのか?」
花城は俺をチラリと見上げて小さくため息をついた。
「たぶん。」
「ええええ…!?」
「何なの?御幸先輩に関係ないじゃん。」
「だってお前…、ええぇ…!?」
「うざいなあ…」
花城は本当にうんざりした様子で心なしが足を早めた。
「好きでもない奴と付き合うのかよ。」
花城が行ってしまうと焦り、俺はついイラだった本心をぶつけてしまった。花城の足が一瞬、踏みとどまった。
「…そっちこそ…」
「え?」
2つの大きな目が、俺をまっすぐに見つめた。
「私なんかに構ってないで…さっさと好きな人に告白したら?」
何も返せなかった俺を数秒じっと睨んで、花城は諦めたようなため息をかすかにこぼし、踵を返して…歩いて行ってしまった。