「お疲れ様です。」
廊下で哲さんに会った。俺があいさつをすると、哲さんもこちらに気づいて、ああ、と頷く。
「丹波の調子はどうだ?」
「悪くないっすよ。昨日も…」
いつも通り話をしていると、ふと、哲さんが何かに気づいたように俺の向こう側を見る。
「あれ?」
ちょっと驚いた様子の哲さんに気を引かれ、同じ方向を見ると、そこに立っていたのは花城だった。
「花城?」
不思議そうに言う哲さん。花城は…見る見るうちに顔を赤くして動揺をあらわにした。
「結城先輩…」
え。この様子、もしかして。
「驚いた。青道に入学したんだな。」
「はい」
「久しぶりだな。」
「お久し…ぶりです」
花城…哲さんを意識してる?ていうか、まさか、異性として好き?
「知り合いですか?」
尋ねると、哲さんは穏やかな笑顔でうなずいた。
「ああ。家が近所でな。」
な、なんだと?幼馴染ってやつ…か?
哲さんはふっと目を細め、花城に微笑んだ。
「大人っぽくなったな。」
「え…。」
目を瞬いた花城が、さらに赤面していく…。
「ああ、髪が伸びたのか」
「…はい。」
「最後に会ったのは、花城がまだ小学生の頃だったからな。成長するわけだ」
「…はい。」
なんか…胸がざわつく。
「あ、呼び止めて悪い。どこか行くところだったか?」
「あ、いえ…はい」
「そうか、すまん。またな。」
「は、はい。…失礼します。」
小さく会釈をして、花城は真っ赤な顔で、熱を振り払うように軽い駆け足で俺たちの横を通り過ぎていく。
甘い香りが鼻先をくすぐった。俺は眼中になかったな…。
「で…丹波の調子は」
「あ、ハイ」
***
「よ。」
自動販売機でジュースを買う花城を見かけ、後ろから声をかける。
俺を振り返った花城は、少し驚いた様子で身構えた。
「…こんにちは。」
「俺のこと覚えてる?」
「…覚えてますよ。」
苦笑してうなずく花城。やっぱ、哲さんの前とじゃ全然違う。
「その後岡田は?平気か?」
「え?…はい。特に何も…」
「ふーん」
俺は進み出て、麦茶を一本購入した。
ガコン、と大きな音を立ててペットボトルが落ちてきた。
それを拾い上げながら、ちらりと花城を振り返る。
「花城って哲さんのこと好きなの?」
「………えっ?」
目を瞬いて動揺した花城の、白い陶器のようなつややかな頬に、じわりと紅が差す。
「な、な、なんでですか」
「ぶはっ、動揺しすぎ!」
「う、うるさいな!」
思わず口が滑ったのだろう、先輩に向かって「うるさいな」とは。本人もハッと顔を赤くして俯いた。結構わかりやすい子だな…面白え。
「片思い?」
「……。」
「野球バカだからなー、あの人は…」
「な、何も言ってないでしょ!」
「いや、バレバレ。」
「な、なんでそんな…こと言うんですか!?」
「べつに、面白えなーって。」
花城は顔を引きつらせて俺をにらんだ。
「最低…。」
「はっはっは!よく言われる♡」
「ていうか、べつに、そういうんじゃありませんから!」
「へえー?」
ニヤニヤと花城を見つめ続けると、次第に耐え切れずに目を背ける花城。
「はい、俺の勝ち〜」
「は!?意味わからないんですけど…」
「はっはっは!」
むっとして俺をにらむその顔も、見とれてしまうほど可愛い。
こんな可愛い子をほっとくなんて、哲さんも罪な人だ…。
「そう怒るなよ。俺も驚いたんだよ…花城みたいな別嬪でも、片思いとかすんだなーって」
「え?…は?」
「口は悪いけど笑」
「……。」
悔しそうに口をつぐむ花城。この子、思ってたより面白い子らしい。
「そう睨むなよ。協力してやろうか?笑」
「いりません!ていうか、ほんとに違うし!」