そして卒業式が執り行われ、学校が少し静かになった気がする3月のある日の午後…。

「花城いる?」

1Aの教室の前でそう言った俺を見上げた鷹野が表情を忙しく変え、最後ににんまりと顔を緩めた。

「いますよおぉ〜?すぐ呼びますねえぇ〜?」
「その顔やめろ。」
「光〜〜〜!!!御幸先輩が呼んでるよぉ〜〜〜!!!」
「大声で呼ぶな…!!」

廊下と教室の注目を浴びていたたまれなく立っていると、気まずそうな顔をした花城がおずおずとやって来た。花城は赤い顔で鷹野を睨み、ちらりと俺のことも睨んで、少し口を尖らせる。そんな顔をしても可愛すぎる。

「…何?」

…こんな素っ気ない態度でも、可愛すぎる。

「ちょっと…話せる?」
「ヒュ〜!!いってらっしゃ〜い!!」
「鷹野お前ちょっと黙ってろ…!」

ひとまず花城も頷いてくれたので、注目と鷹野の冷やかしから逃れるようにして俺たちは中庭にやって来た。
舞い散る桜の白い花びらが、花城の肌の色と本当によく合って、彼女の姿を引き立てている。まるで花の妖精みたいな…。

「…何ですか?」

先ほどまでよりしおらしい様子でつぶやく花城。ほんのりと色づいた頬と尖らせた唇の赤さが胸を焦がす。

俺は一度深呼吸をして、背筋を伸ばした。

後悔のないように…。その哲さんの言葉を胸に抱きながら。

「俺…好きな人に告白しようと思う」

俺なりに真剣にそう伝えると、花城は俺を見つめたまま、小さく口を開き、息をのんだ。

「…そうですか」

そしてそう呟き、足元に視線を落とす。

「…なんで私にわざわざ報告するんですか?」
「お前に、さっさと告れって言われたし。それに…」
「……。」
「俺も来年には卒業だし…少しでも早く…言いたくなった」
「…なら、勝手に…」
「だから、今度は逃げないで聞いて。」
「…?」

花城の目が不思議そうに俺を見上げた。
鷹野に、哲さんに、速水に…こんなにいろんな人に俺の気持ちは駄々洩れなのに、肝心の本人には全く伝わってないなんて、変な感じだ。

「去年の春…出会った時から、花城のことが気になってた。」
「……。」
「ちょっかいかけてばっかりで…うざい先輩だったかもしれないけど」
「……。」
「俺は…花城のことが好きになってた。」

花城が驚いた顔で、じっと俺を見つめる。二つの目は戸惑いに揺れ、唇は震え。
俺はその目から視線を離さないよう、見つめ返した。

「花城のことが好きです。俺と…付き合ってください。」

花城の目が、ふっと瞬いた。

「……え……?」

こぼれた声は震えていて、花城は、震える指先でそっとその唇に触れた。

「……あの……」

花城の目が泳ぎ、顔が赤くなっていく。

「…逃げるなよ。」
「……。」

つい釘を刺すと、花城はうっと肩をすくめた。

「こ…、これも冗談……?」
「本気。」

だけどまだ困惑する花城に、俺は疑いの余地もなくなるほどの即答をした。とにかく信じてほしかった。遠回りしたけど…

「……。」
「…フるなら早くしてください。」

まだ茶化す余裕が自分にあったことに自分でも驚く。でも、じっと無言で返事を待つなんて拷問だ。

「…やっぱ無理?」

せっかちかもしれないけど、俺は沈黙に耐え切れずまた言葉を重ねる。

「あ…。ちが…。」

花城のか細い声が返ってきて、俺はやっと顔を上げて花城の顔を見た。
花城は耳まで真っ赤で…目を潤ませていた。

「あれは…、あのときは…びっくりして…。」
「…え?」
「その…。頭が真っ白に、なっちゃって…。」

潤む目の目尻を少しぬぐって、花城は胸に手を当てた。

「ほんとは…、…嬉しかったけど……」
「……。」
「……。」
「……。え?」

つまり…?

「…え、あの時両思いだったってこと?」
「……。」

花城の顔が今までにないくらいに真っ赤になってる…。

「…じゃなんで逃げたんだよ!」
「だから!びっくりしたの!」
「無理!って言ったのは!?」
「混乱したの!」

なんだそれは…。今までの悩みはいったい何だったんだ。
鷹野が言ってた冷やかしはまるっきり本当のことだったってわけか。今告白してなかったら花城は速水と付き合ってたのかもと思うと…ヒヤヒヤさせてくれるぜ全く…。

「…じゃお前が悪いってことで良い?」
「……。」
「冗談だよ冗談…」

花城ににらまれて俺はすぐに前言撤回した。惚れた弱みだ。

「……じゃ、返事聞きたいんだけど。」
「……。」

改まって向き直ると、花城も姿勢を正した。

「…私も……御幸先輩が…好き」

…やばい。すげぇ破壊力。
好きな子に好きって言われるのって、こんなに胸の奥が熱くなって…涙腺が痺れて…頭の中はめちゃくちゃで。
こんなに…幸福感に包まれて、天まで昇ってしまいそうな気分になるんだ…。

「…じゃあ…これからよろしく」
「…うん」

俺は一つ咳ばらいをし、そう言った。花城は頷いて、赤いままの顔で俺を見上げ、どちらからともなく、笑いがこぼれた。

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